見た目のおかげで人望のない勇者
茶電子素
見た目のおかげで人望のない勇者
勇者アキラは、誰もが一目で「勇者だ!」とわかるような完璧な装備を身にまとっていた。黄金の鎧はピカピカに光り、剣は一度振るだけで敵を薙ぎ払う伝説の武器。しかし人々が彼に向ける視線は、尊敬や期待ではなく、ただの困惑だった。
「……あの、すみません……ちょっと、私の話を聞いてもらえますか?」
勇者アキラが話を聞こうと近づくと人々は無言で後ずさる。理由は簡単だ。アキラの顔だ。
その顔は、子供の頃から変わらず「完璧すぎるほど整っている」のだ。整いすぎていて、微笑んでも悲しんでも、表情がどこか怖い。眉の角度、目の輝き、口元のライン――全てが「この人は人間ではない」と言わんばかりの神々しさを放っていた。
戦場では誰も文句を言わない。ドラゴンを討ち倒し、盗賊団を壊滅させ、魔王の手下も次々と倒していく。しかし、街に戻ると、彼の功績を素直に褒める者はほとんどいなかった。
「……勇者さま、あの……もう少し、普通に笑ってくれませんか?」
ある日、アキラは決心した。人望のない勇者として名を残すのはいやだった。好かれるためには、勇者らしからぬ“親しみやすさ”を身につける必要がある。
試みは多彩だった。
笑顔の練習:鏡の前で口角を上げ、目尻を少し下げる。結果、ますます不気味になった。
小話を言う:意外に笑える話を用意したが、声のトーンが低すぎて「怖い冗談」に聞こえる。
手を振る:元気に振った手が、まるで攻撃の構えに見える。
人々は困惑し、アキラはますます孤独になった。
そんなある夜、ひっそりと町の広場に座り込んでいると、子供が一人そっと近づいてきた。
「……勇者さま。僕、勇者さまのこと、すごくかっこいいと思います。」
アキラは驚いた。「本当か?」
「うん。ちょっと怖いけど……それが好きです。」
その瞬間、アキラは悟った。人望は無理に作るものではない。自分らしさを見せることで、ほんの少しでも誰かに届くものなのだと。
次の日、彼はいつも通り黄金の鎧を着て、聖剣を手に完璧な勇者として町を歩いた。
表情もいつも通り少し怖いまま。でも、心の中では小さな笑みを浮かべていた。
人望はなくても、少なくとも一人には愛されている――それで十分だと思えたから。
見た目のおかげで人望のない勇者 茶電子素 @unitarte
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