色仕掛けコンクール

@wanwanwan123

第1話



さあ、はじまります





舞台は煌びやかなシャンデリアが輝く大広間。そこに集まったのは、全国から選ばれた55人の女性たちだった。



今宵、この場所で、究極の「色仕掛け」を競う、伝説のコンクールが幕を開ける。


審査員は、この道の権威者たち。


彼女たちは皆、息をのむような美しさで、これから始まる戦いの火蓋が切られるのを待っていた。

55人の参加者には、それぞれ漢字一文字で始まる名前がつけられていた。

あ行: 藍、朝、安、杏、彩...

​か行: 楓、華、香、霞、花...

​さ行: 桜、紗、沙、雫、詩...

​た行: 珠、千、月、紬、都...

​な行: 菜、凪、奈、渚、寧...

​は行: 葉、羽、遥、陽、姫...

​ま行: 真、舞、麻、茉、美...

​や行: 結、友、優、由、夢...

​ら行: 蘭、莉、理、梨、凛...

​わ行: 和、輪、倭...

一次審査「初見の魅力」

一次審査のテーマは「初見の魅力」。ステージ上で、わずか30秒の間に、審査員を一瞬で魅了する色仕掛けを競う。

​次々と繰り出されるのは、大胆なアピール、計算し尽くされた視線、そして巧みな言葉の罠。朱雀 紅葉(すざく くれは)は情熱的な赤いドレスで、黒曜 月夜(こくよう つきよ)は深いスリットから覗く足で、それぞれ熱い視線と冷たい視線で審査員を惑わせる。

そんな中、白雪 姫香は、ただ静かに、ゆっくりとステージ中央へ歩み出た。彼女は何もせず、ただそこに立っているだけだった。

しかし、その佇まいが、会場のざわつきを静かな熱気へと変えていく。彼女の瞳は潤んでいて、まるで「あなただけ」と語りかけているかのようだ。

​30秒が過ぎ、審査員の一人がマイクを手に取った。

「君は何もしていない。ただ立っているだけだ。だが、その純粋さが、最も強い色仕掛けだ」

​審査を通過したのは、白雪 姫香、朱雀 紅葉、そして経験豊かな琥珀 玲(こはく れい)ら20名だった。

二次審査「物語の色香」

二次審査のテーマは「物語の色香」。


一人の審査員を相手に、決められた物語のワンシーンを演じ、その中で色仕掛けを実践する。

​朱雀 紅葉は、情熱的な言葉と仕草で彼を翻弄した。琥珀 玲は、年上の余裕と色気で、主人公を手のひらの上で転がすように見事な演技を見せる。

​白雪 姫香の物語は「雨宿り」。突然の雨に降られた男性と、軒先で出会うシーンだった。彼女は、寒さに震える演技をしながら、男性のジャケットにそっと袖を通した。そして、顔を上げて潤んだ瞳で「ありがとうございます」と囁く。その声は、まるでガラスのように繊細で、彼の心を震わせた。

結果発表。


通過者はわずか5名。


白雪 姫香、朱雀 紅葉、琥珀 玲、そして技巧派の藤野 桜(ふじの さくら)と、天真爛漫な華園 椿(はなぞの つばき)が、最終審査へと駒を進めた。

​最終審査「無色の色香」

​いよいよ最終審査。テーマは「無色の色香」。ステージには何もない。衣装もメイクも、全てを削ぎ落とした、最も純粋な「色」を問う。

​5人のファイナリストがステージに並ぶ。誰もが、これまでの華やかさを捨て、ただそこに立っていた。そして、審査員の一人から、一人ずつに質問が投げかけられた。

​「あなたにとって、色仕掛けとは何か」

​朱雀 紅葉は「愛を掴むための武器」、琥珀 玲は「大人の嗜み」と答える。藤野 桜は計算された言葉で、華園 椿は屈託のない笑顔で答えた。

​そして、白雪 姫香の番が来た。彼女は少し考え、ゆっくりと口を開いた。

​「色仕掛けとは、愛を、優しさを、受け取るための、小さな勇気です」

​彼女の言葉に、会場に静かな驚きが広がった。彼女の瞳は、これまでの儚げな美しさとは違う、芯のある光を宿していた。

​「私たちは、何かを欲しがるとき、言葉だけでは伝わらないものがあります。そんなとき、色仕掛けは、言葉にならない気持ちを伝えるための、もう一つの言葉なのだと思います」

​彼女は、そう言って微笑んだ。その笑顔は、清純さだけではない、強さと、慈愛に満ちていた。

​審査員は互いに顔を見合わせ、深く頷いた。

​「勝者は、白雪 姫香だ」

​彼女は、誰よりも純粋な心で、最も奥深い「色」を放った。色仕掛けコンクールは、一人の女王を誕生させ、その夜、静かに幕を下ろした。

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