ケース⑥ 女囚人さん


 ……なあ。

 なあって。


 アンタ、新顔だろ?

 いつからここきたん?


 ……へえ、昨日か。

 道理で。


 なんか落ち着かない感じがモロだよ。

 ソワソワしちゃってサ。

 うん、そうそう。

 塀の中に来たばっかのヤツはみんな、同じような雰囲気があるんだっての。


 アタシ?

 アタシはもう2年目。


 まあ、なんかわかんないことあったら聞いてよ。

 初めてなら慣れるまで結構かかるだろうし。

 

 え?

 そうかい?

 ははっ、別にアンタをだましてどうこうなんて考えちゃいないヨ。

 そう、構えなすんなって。


 まあ、信じられないのもわかんなくはないけど。

 場所が場所だけにネ。

 確かにここにいるのはどいつもこいつも人の道外れた、犯罪者しかいないこの世の肥溜めには違いないもんねぇ。

 でも、外の印象はどうだか知んないけど、意外とここって平和なとこだからサ。


 ありがちな人間関係のいざこざみたいなもんなんて滅多にないし。

 基本的には女囚どうし、仲良くやってるんだよ。

 喧嘩したりいがみ合ったりなんて、無駄だからね。

 っていうか、そんな元気なんてあんまないっていうか。



 あの労務作業でヘトヘトに疲れ切ってて、とてもじゃないけど他のことにカマかける余裕なんてないんだって。



 アンタもわかってるとは思うけど、アタシたち女の犯罪者ってのは男と違って一切の労働の代わりに一定量の性交が義務づけられてる。

 量刑の重さで具体的な回数やら頻度はまちまちだけど、基本的にはほぼ毎日だと思っていい。

 外から希望者の男が来て、やることやってまた出てくと。

 人特法で高額の保証金払えないヤツらに最低限の手間賃だけで解放するっていう、救済措置みたいなもんを兼ねてるんだろうサ。


 アンタも早速、さっき済ませて来たんだろ?

 まああんな感じなのがずっと続くと思っていい。

 場合によったら、一日に数回やることだって当たり前だからね。

 せいぜい身体が持つように、負担かけずにすんなりするする済ますことを考えな。


 特にアンタなんか、綺麗な顔してるからこれから忙しいだろうよ。

 あんまソッチの方には慣れてなさそうだし。

 とっととコツ覚えてやりこなせるようになった方がいいヨ。


 ……ああ、ゴメン、別にビビらせる気はなかったんだ。

 御初の洗礼受けたばっかじゃナーバスになってもしゃあないけどさ。

 でも、そういちいち悪い方に考えないのがいいってこと。


 なあに、あんなのただ肉体使った労働ってだけさ。

 慣れないうちはいろいろ考えて、あーだこーだ思ったりするかもしんないけど。

 えっちらおっちら、ひたすら汗かいて数こなしてノルマ達成すりゃいいってだけのもんだよ。

 それ以上の意味だの価値だの見出そうとするのが馬鹿馬鹿しいさね。

 そんなのただの幻想なのヨ。

 アタシらの何かが減ることも失われることも大してない。

 無くなるものなんて、動いたり使われたりするたびに消費する体力と気力くらいのもん。


 ……うん。

 そうそう。

 結局、外でやってることとそう、変わんないのヨ。


 悪いことばかりじゃないしネ。

 やればやるほど、刑期は短くなるってことなんだから。

 ガキ出来たら、さらに評価されるって寸法サ。


 んで、何やったん?

 ……ああ、投資詐欺か。

 じゃあ意外と早く出れるんじゃない?


 毎日数人こなして、刑務官の相手もほどほどにしてりゃ、模範囚であっという間サ。

 下手すりゃ半年で出れるかもね。


 まあ、あんま人気が殺到して休む間もないってのも考えもんだけど。


 あっちの見るからに夜業やってたみたいな、なんとなく見た目が派手な女。

 アイツは流行りの恋愛詐欺の常習だったらしいんだけど。

 あの通り、見てくれはずば抜けてるから相当しんどいことになってるのヨ。

 それもさんざん騙してきた男たちが殺到しちゃってね。

 ここぞとばかりにやられまくってるって。

 まあ自業自得っちゃそうなんだろうけど。

 ルール上の上限までみっちり、連日満員御礼の大繁盛ってワケ。

 積もり積もった被害額が数億とかいうから、まあ、その怨念をたっぷり身体で払ってるってことさね。

 ただ、そのおかげで刑期はガンガン消化されてるのさ。

 そろそろ出てく見込みらしいから、あんだけ疲労困憊でやつれてるように見えても、目は死んじゃいない。

 人間、終わりが見えてりゃ大抵のことは耐えられるってね。


 ……あとは。


 ほら、アソコの取り巻きみたいなのに囲まれてる、艶っぽくて迫力ある美形の女いるだろ?

 あのヒトなんか、有名な女ヤクザ、いわゆる極道の女らしくてさ。

 そりゃもう、ここぞとばかりに希望者が殺到してスゴイことになってるもんさね。

 恐らく普通なら一生関わり合いになれない裏稼業の顔役を堪能できるってんで、素人玄人問わず外の男たちはもちろん、ここの所長はじめ刑務官全員を相手にしたとか。

 んでもさすがその道の人間だけあって、全然弱音なんか吐かないね。

 ずっと毅然として、大したもんだよ。

 ああいうのがカリスマっていうもんなのかもね。

 まあ、あんな風になれとは言わないけど、アンタも精々根性入れて頑張りな。


 ……えっ、アタシかい?

 ふふ、なんだと思う?


 ……外れ。

 なに、ちょっと男関係でもつれちまってさ。


 人の恋人に手ぇ出したアホ女ぶっ刺してやっただけさ。

 一回ヤッたからって、自分こそが愛人みたいなツラしやがったから。

 とんでもなく業腹な話サ。

 今時、ガキ作るための行為と色恋同じに考えるなんざ。


 ああ、死んじまったよ。

 下手こいたね。

 楽に死なせてやるなんて不手際しないで、せいぜい生き地獄味合わせてやるつもりだったのにサ。


 ……ん、点呼が始まるみたいだ。

 じゃあね、これからちょくちょく顔合わせるだろうからよろしく頼むよ。

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