新しい生き方

 ここから、通称「神の間」までの道のりは分かる。ただ、それにはその神の許可が必要だ。神の間にいる神には、管轄世界という物があり、その神自身は、管轄内の世界であっても本来干渉は出来ない。ただ、例外として、神の間への干渉や、神の間への侵攻等、神へ関わった時のみ、神は動くことが出来る。

 神の間への道のりは知っているので、干渉はまだ出来る。後は、この世界が管轄内の神に祈るのみだ。優しい神で、運良く私を見ていて、神の間の中へ入れてくれて、どこか別の世界へ飛ばしてくれるような…そんな、理想の神をであることを願うしかない。

 それ以前に、そもそもこの情報が正しいのか、すべてが間違っているわけではないにしても、どこかに間違いがあったり、知らない禁止行為や、知らないナニカ………私にとって、致命的なナニカがあってもおかしくない。


 本当に、最終手段。賭けなのだ。


 神の間まであと少し。力も余っているし、アクシデントも無い。生命反応も私達以外にないし、これなら、本当に行けるかもしれない。


「…神の間、その周辺には見えない空間がある。まずはそこに立とう。」

「はい。」


 そうこうしているうちに、何の障害も無く神の間の前まで来た。


「空中で立つというのも不思議な感覚ですね…」

「…空中に地面…いや、地面と言っていいのか?」


 たしかに、空中にある床?は、なんと言えばいいのだろう?…って、こんなこと考えている場合ではない。私の力には、タイムリミットがある。


「それでは行きます。 ニードリル 」


 一点集中の技を、見えない空間に放つ。………が、何も起きない。


「…これ、神の間入口ですよね?」

「………力が、足りないのかもしれないな。」

「…干渉に値する力に、達していなかったという事ですか?」

「…断定は出来んが、な。」


 ……今の私に残っている力で、さっきの威力以上の技を出すことは出来ない。

 …まただ。またこの感情。不安、恐怖、絶望。負の感情が纏わりつき、体の芯から、急速に冷えているような感覚。…それに加えて近くに虫がいる。人間よりも圧倒的に低い生命反応。この小ささは多分虫………――――ん?


「こんな遥か上空に虫?…いや……もしかして!!」


 そこにいたのは、10匹の、元人間の、私の仲間たちだった。


「なんでここに?…」


 妖精は言葉が話せない。ので、身振り手振りで話すのが基本だが…私が作った存在だから、私には言いたいことが分かる。



 力、エネルギーを渡すことは、妖精の特性が邪魔して出来ない。ただ、多大なる代償を支払えば、渡すことが出来る、とのことだ。


「代償……分かりました。私の人間としての寿命をほとんど捧げます。そうすれば…」

「ダメだ。」

「しかし、他に賭けられるようなものは…」


 多大な、となると、相当なものが必要だ。それこそ、命レベルの。


「………すまない。さっきから黙っていたが…僕は、もうそろそろ記憶が削除される。」

「………な、何故ですか?」


 突然の最悪な報告に、背筋が凍る。


「そんな、もう、救世主じゃないのに…」

「…僕にも分からない。…が、記憶が無くなることだけは本能的に、分かるんだ。」

「…」

「だから、僕の記憶を差し出そう。救世主時代の…全ての記憶を。」


 ……私には、どうも出来ない。

 ミービルさんの記憶が削除される理由、それは恐らく、救世主の特性だ。救世主は、他の困っている善の存在の所へ飛ぶと同時に、記憶が削除されるように出来ている。私の精霊の暴食が成功するのに、時間がかかってしまったせいで、時間的に記憶削除の段階まで行ってしまっていたのだろう。


「……でも、やっぱり私には…」


 人間になっていしまい、感情が思いっきり表に出るようになった。そのせいで…私に、ミービルさんの記憶を消すことなど、出来ない。


「…妖精さん。君は、リボン…彼女のことが、好きなんだね。」


 ミービルさんの問いに、クルリと回転した。これは、「肯定」を意味する。


「君を見ていれば分かる。……だからこそ、僕の記憶を…消してくれ。」

「ッ!?ちょ、ミービルさん!!勝手なことは…」


 私の言葉を遮るかのように、赤妖精さんは、ゆっくりと、回る。


「赤妖精さんまで!!…赤妖精…あれ、名前…」


 名前が…出てこない。……忘れるはずがない…仲間の名前を…


「…今リボンは、記憶を徐々に失い始めている。時間がない。妖精さん、リボンのためを思って…やってくれ。」

「…待ッ!!」


 私が静止をする直前に、10匹の妖精が集まり、クルクルと回って………私に……力を宿した。

 それと同時に、ミービルさんがガクッと、突然眠ったかのように崩れ落ちた。


「……っ………!…せっかく……ここまで来たのに……」


 …………悲しんでる暇はない。……どれだけ生きてきたんだ。頑張れ、あとは神の間に向かって、適当な、大きな魔法を放つだけ…だ。


「………っ……ふ…ファイヤー………………ファイヤー、ボール。」


 どんなに…どんなに……泣かまいと……どんなに、生きても……やっぱり、人間は不器用だ。……こんなに泣かまいとしているのに……目からは、大量の涙が零れ落ちている。


「っ………ミービル、さん………ミービルさんの為にも…私、頑張りますから。…どうか、……っ………どうか、見守っていて下さい。」


 本当は、笑いながら、心配されないような顔で言いたかったが、無理だ。感情のコントロールが出来ない。



 ミービルさんを抱え、私の放った最上級のファーヤーボールが完全に消えるのを待つ。


「…本当に、本当に、良く頑張りましたね。」


 ファイヤーボールが消えたと同時に、目の前に泣きじゃくってる綺麗な女の人が現れた。


「ずっと。見てきましたよ。」


 …この人が…神、様?



 §



「色々と言いたいことはありますが……一言だけ。本当に、頑張りましたね、リボンさん。」

「あ、ありがとうございます…」


 ここが…神の間?…真っ白で…何も、無い。


「本当はもっとあなたたちと話していたいのですが…私にも、時間がありません。神の間人間を入れるなど、神としてあるまじき行為ですからね。見つかったら怒られるどころの話じゃないんですよ。」

「…では、何故、私たちをここに?」

「…私はまだ神になったばかりで…管轄世界も初めてで、ものすごく小さいんですよ。だから、上位世界を管轄内とする神様みたいに、上手く感情をコントロールできなくて…一人間に感情移入するなど、神に向いてないとしか言いようがありませんね。」


 …一人くらい感情丸出しな神様、いてもいいと思うけど。


「それでは、あなたたちを上位世界へ送ります!」

「え?…そんなこと、出来るんですか?」

「はい!出来ます!…が、バレたらワンチャン死にます!」

「え?」


 やっぱり神怖い。笑顔で死ぬとか…


「でも、大丈夫ぶ。私が送る世界の神様は、怠惰な人だから。見逃してくれたり、少なくとも殺されたりはしないと思う。」

「殺される危険性がある所に私達行くんですか?」

「あ、死ぬのは私ね?」

「え?」


 ワンチャン死ぬって、自分の事だったの?……尚更怖い。


「この世界は、宇宙なるものがあって…それはもう膨大な広さなんですよねぇ」

「宇宙?…」

「あ、すみません。本当にそろそろヤバいので、えーっと…じゃあ、地球へ飛ばします。リボンちゃんはそのままでいいですが…ミービルさんの方は名前を変えて下さい。そうすれば二人とも地球へ行けます。」

「名前…」

「それでは、飛ばしている最中に考えといてくださいね?着くまでに大声で新しい名前となる物を叫んでくれれば、成功です。」

「分かりました。」

「それでは!良き生があらんことを――」


 名前名前…ミービル…ミー?ビル?…いや、私のフィンテンジのフと、ミービルのミを取って………フミ……フミ!!いい響き!





「新しい名前は……フミ!!!!!!!!」




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救世主 青いバケモノ @tadanoyurizuki

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