Story#0000:人類の未来のために
就寝中、幻夢境を歩いていると、師であり上司であるコンサルタント柊が現れた。最高管理官のアドミニストレーター・榊と同等かそれ以上の権限を持つ彼は、時々こうして、パーソネルたちの夢に現れては忠告や助言をしてくれる。
コンサルタント・柊は、穏やかな声で言った。ヒュムネス種の大覚醒が近付いている。それを成功させる、最後の布石が打たれた。
ああ、と頷くと、コンサルタント・柊は続けた。あの少年から目を離すな。慎重に教育しろ。そしてこの事をハイルローゼの者たちに明かせ。覚悟を持って、接しろ。あの少年の言葉こそが、あの少年の意思こそが、この世界の人類の未来を決定する。
分かりました、と答えを返すと、コンサルタント柊は頷き、去っていった。
翌日、教皇リリス・ハイルローゼの副官である、シャルル・マットロック枢機卿に連絡を取った。人間種族の大覚醒に備えて、我々は数千年に亘り協力関係を続けている。
元々ハイルローゼ教会は、無辜な人々に宇宙の法について教える霊的・宗教的指導機関である。その起源は古く、十数万年前のレムリア・アトランティス時代の初期から続いているとされる。
我々WSAは彼らに比べると若輩である。前身となる異種間調停理事会は、他種族との平和的共存のために、二千五百年程前に設立された。WSAが民間の調停機関から数世紀を掛けて巨大組織となった裏には、常に教会の存在があった。
火星との星間戦争の戦時下に於いても戦後四十年の無秩序の中にあっても、その混乱を収め、秩序を取り戻すことに成功したのは、彼らハイルローゼ教会との共闘あってのことだった。
彼らの組織的な目標は、種族大覚醒という出来事そのものにある。レムリア・アトランティス文明の滅亡原因は、人類文明が種族大覚醒の失敗により地球の天体意識に有害不要と見做され淘汰されたことにある。
二度の失敗から教会は慎重になり、あまり動くことが出来なくなっている。だが、種族大覚醒に関しては彼らは神々から受け取った言葉があり、その件に際して我々は、彼らに伝えたことがある。
───我々はあなた方の剣であり盾である。
種族大覚醒には二つの、発生条件がある。それが発生する時代には、先天的に覚醒している"神の子"とされる人物と、後天的に覚醒した"覚者"という人物が現れることである。
十四万四千人の覚者を集め、神子の意乗りを覚者たちの祈りで増幅する。そうすることにより残りの大多数の者たちは、自然に覚醒することが出来る。
既に神の子も、覚者たちも我々の手の内にある。心を閉ざしている神の子も、あの布石が打たれた今、心を開くだろう。
───全ては人類の未来のために。
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