第16話

夜が静かに明け、薄明かりがリビングの窓から差し込んでいた。アマリリスは昨夜から徹夜で考えを巡らせ、ソファに座ったまま、深く淹れたコーヒーを手にしていた。カップの縁から立ち上る香りが、静かな朝の空気にゆっくり溶け込む。考えはまだ渦巻いているが、少しずつ夜の重さが薄れていくのを感じていた。


そのとき、階段を降りるかすかな音が聞こえた。フララスが、まだ眠たげな足取りでリビングに現れる。髪の毛は少し乱れ、目には眠気の残る柔らかい光が宿っていた。手には、小さくて黒い花をそっと握っている。


「……おはようございます」フララスの声は、まだ夢の名残のようにかすかだった。


アマリリスはふと顔を上げ、フララスの手元に目をやる。黒い花が、朝の柔らかな光にほんの少し影を落としている。その瞬間、昨夜の考察や重苦しい思索が、一瞬だけ解けるような感覚がアマリリスの胸に走った。


フララスは、花を差し出す。アマリリスは少し戸惑いながらも、手を伸ばしてそれを受け取る。花の冷たさと、朝の静けさが同時に指先に伝わる。


「……おはよう」アマリリスは小さく微笑み、静かに言った。その声は、長い夜を超えた朝の光のように、柔らかく温かかった。


フララスはほんの少し微笑み返し、静かにその場に立っている。リビングの窓から差し込む朝の光が、二人を包み込み、夜から朝への橋渡しをしていた。


朝は、新しい日常の始まりを告げていた。

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神様の休暇 紙の妖精さん @paperfairy

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