神様の休暇

紙の妖精さん

第1話

 アマリリス・羽矢・未嶺・ライトライムは、その日、いつものように東都京町(とうときょうまち)の駅のコンコースを歩いていた。平日の午後、往来の人々のざわめきとアナウンスの響きが混じり合い、光の神である彼女にとっても、ただの人間たちの暮らしの風景にすぎなかった。


 だが、その時だった。

 少し離れた向こうの通路に、ひときわ鮮やかな光羽が舞い降りるのを彼女は見た。白い羽根――それは人間が持つはずのない、神の証の光。アマリリスの胸はどきりと高鳴る。あの輝きは尋常ではない、と。自分と同じか、それ以上の存在――そう直感した。


 人々はその光に気づかない。ただアマリリスだけが、それを鮮明に視認していた。

 彼女は小走りでその光へと近づいていく。だが、次の瞬間、羽根はすっと畳まれ、光は掻き消えるようにして沈んでしまった。そこに立っていたのは、年端もいかぬ一人の少女だった。


 少女は無言で靴を脱ぎはじめる。冷たい床に素足を置き、彼女は小さく祈るように両手を組み、そして――迷いなくコンコースの柵に手をかけた。

 アマリリスは息を呑む。


「……まさか!」


 次の瞬間には、彼女の身体は勝手に動いていた。少女が身を乗り出すその瞬間、背後からその細い腕をがっしりと掴み、強引に引き剥がす。

 柵の前に転がり落ちた少女は、はじめは驚いたように目を見開いていたが、すぐに膝を抱え、声を震わせながら泣き始めた。


 アマリリスは言葉を失う。目の前にいるのは、光を失った神の子――。涙の奥にかすかに光を帯びる瞳が暗く満ちていた。


 迷ってはいられなかった。周囲の人々がざわめき、何があったのかと視線を向け始める。アマリリスは少女の手を取ると、そのまま彼女を立たせた。


「来て。ここじゃ落ち着かない」


 少女は抵抗しなかった。泣きじゃくる肩を小刻みに震わせながら、ただアマリリスに導かれるまま歩いていく。

 二人が辿り着いたのは、コンコースの隅に併設されたカフェレストランだった。

 ガラス窓の奥で、暖かな光が漏れている。その中に少女を引き入れると、アマリリスはようやく息を整え、少女の顔をじっと見つめた。


 ――眩いほどの美、と絶望。

 そう思いながらも、アマリリスの手は、しっかりと少女の冷たい手を離さなかった。

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