第3話 偶然の出会い

 そんな幸せな結婚生活の続いたある日。

 私は、新聞の広告に目を留めた。そこには、

『ミロ展 東京都美術館 初期から晩年まで大展覧会・・・・』とあった。

「行ってみようかな。」

 思わず言葉が出た。

「え?どこへ。」

 修斗が、聞き返した。

「あ、うん。あのね。ミロ展っていって、スペインのとっても人気のある画家の絵が、日本で見られるって、それで行ってみたいなって。」

「そっか。行ってみればいいんじゃない。」

「じゃあ、修ちゃんも一緒に。」

「俺か~。どうしようかな~。全然分かんないしなぁ~。」

 頭を掻く修斗を見て、つまらなかったら悪いな、と思って。

「じゃあ。私1人で行く。じっくり見たい気もするし。」

「そっか。ごめんね。ゆっくり見ておいで。」


 土曜日、美術館を訪ねた。展示は素晴らしかった。時間が経つのを忘れて1つ1つじっくり見た。すぐに帰りたくなくて、喫茶室に寄った。丸い大きなテーブルにかけて、紅茶を飲みながら、購入したカタログを、愛おしく眺めた。

「隣いいですか。」

「あ、どうぞ。」

 男の人がコーヒーをもって座った。

「『ヤシの木のある家』いいですよね~。」

 男の人が、私の開いているページを見て話しかけてきた。

「はあ。そうですね。」

「ぼくは、『星座シリーズ』が好きなんですけどね。」

「私も、デザインの仕事をしているので、『星座シリーズ』は好きです。」

「デザインの仕事をされているですか、やっぱり専攻はデザインで?」

「世田谷美術大の油絵専攻なんですけど、デザインが専門で・・・。」

「ほう。僕は、首都芸術大学のデザイン専攻で・・あ、こういうものです。」

「芸大?すごい。」

 渡された名刺には、「都立武蔵野高校 教諭 美術科 来栖 総くるす そう」とあった。

「高校の先生なんですね。」

つい反射的に、名刺を渡してしまった。

「あ、よろしく。中田さん。」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る