ユキさんと僕

大河かつみ

第1話 出逢い(1)

 雨上がりの夕暮れの銀座。僕は数寄屋橋前の交差点を歩いていた。

ドン!という衝撃があり、僕は宙を舞った。そして近くの電信柱に激突して路上に倒れた。自分の身体からどくどく血があふれ路上に流れだしているのが分かった。背後に急ブレーキをかけて止まった車があり、運転席から女性が駆けよってくるのを見上げた。

「すみません!大丈夫ですか?」その女性は、そう言って倒れている僕の顔を覗き込んだ。彼女の宝塚スターのようなはっきりとした目鼻立ちの、言ってしまえば大地真央似の美貌に僕は一目惚れしてしまった。慌てて飛び起き

「いやぁ、ぜんぜん大丈夫。こんなのどうってことないですよ。」と言って笑った。

「でも、全身血だらけ。……」

「気のせいですよ。」

「でも肩から折れた鎖骨が、とび出してますけど。……」

「え?あ~、よくとび出るんですよ。おそらく体質なんだと思います。そんな事より、これも何かの縁ですから、これから一緒に食事でもどうです?」僕はそういうと鎖骨を無理やり身体に押し込んだ。怪我の方は二の次だ。今は彼女と色々な話がしたかった。彼女は逡巡していたが、支払いは僕がすると言ったら喜んで受けてくれた。

 繁華街だったから野次馬が沢山集まっているのに気がついた。誰かが通報したのだろう、救急車がやってきた。

「何が食べたいです?」

「お任せしますわ。」

「じゃあ血の滴るようなステーキなんかどうです?なんだか無性に食べたくなってきて。身体が欲しているのかな?」

僕と彼女は救急車に乗り込むと運転手の救急隊員に「病院の前に美味しいステーキが食事できる店によってもらえますか?」と伝えた。その男も軽くウインクして車を発進させた。サイレンを鳴らしているので直ぐに到着することだろう。やはり銀座は今でも粋な恋の街なのだった。

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