第5話 大正時代の作家さん

大正時代の作家さん




「あれあれ?さっき大正時代の作家さんの詩集に貼った紙が剥がれちゃったなぁ…」


と、編集仲間がぼやいている。


未発表詩集の束のある部屋に入って来る。


「しょうがない、また貼っておくか。

"遺稿"…と」



「あれ?君どうしたの?

泣いてるの?」


私は、さっと涙をぬぐって

気を強く持った。


「この作家さん、私の知り合いなんです。

今偶然この未発表の詩集を発見して…。


でも、遺稿だなんて…


あまりにも悲しすぎます。


まだ、若いんです。」


私は嗚咽した。



「あ、それ今日取りに来るやつ。


生きてるよ。その作家さん。

今日原稿取りに来るんだよ。



遺稿は、こちらの大正時代の作家さんの詩集にさっき貼ったの取れちゃって…


はははは…」



私はあっけにとられた。


なんだか、頭が真っ白!

急に力が抜けた。


ホッとしたと同時に、なんだか強烈な怒りが湧いてきた。

ふざけないで下さい!

とまでは言えないけれど、とっさにこう言った。


「えっ?


そうなんですか?


ひどいです!


人が悪いです!!!」


多分私の顔は蒼くなったり、赤くなったりでひどい顔だったのじゃないかしら!?


相手がドン引きなのがわかる。


「わざとじゃないんだよ。

ゆるして!」


逃げるように編集仲間が未発表詩集を発見した部屋から出てゆく。



「もぉ~っ!!!」


私は部屋に一人になった。


あーん、良かったぁ。

本当に良かったぁ。

もぉ~っ、信じられない。

気がおかしくなるところだった。


何だか急におかしくなって、笑いたくなってくる。

わたし、本当におかしな人になっちゃってるよ!


でも、まてよ!?

今日取りに来るって!



ええ〜〜〜っ!

本当に!?


なんていう偶然!

なんていう幸運!



で、会ったらなんて言えばいいの?


だめ、考えちゃだめ。


これは、大切な機会なのだから、細かいことはどうでもいい…。



とにかく、感じよくしなくちゃ…


ドキドキする


すーっ、はーっ、深呼吸して…。


落ち着いてきた?








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