最終話 #小説に諸説あり


◇◆◇


 ――目を開けたとき、そこは画面の中だった。


 いや、違う。

 “自分が”画面の中に閉じ込められている。


 周囲は、見覚えのある黒背景。

 掲示板のスレッドがずらりと並ぶ。

 その一番上に、こう表示されていた。


 《【新スレ】呪いの小説、

  読んだやついる?【#諸説あり】》


 俺は叫んだ。

「やめろ……! そこには入るな!」


 しかし、指で書き込もうにも、文字は崩れ、黒い染みのように広がって消える。


 声を上げても、誰もこちらを見ない。


 何故なら、俺は物語の中の人だから。


 スレには、

 新しい書き込みが次々と投稿されていく。


 > うわ、これまだ残ってたんだw

 > みんな、行方不明になったって話マジ?

 > ↓これ、画像の奥に“顔”あるんだけど……見える?

 > #諸説あり


「駄目だ……見るな!

 スクロールするなって!!」


 喉が裂けるほど叫んだ。

 だが、当然届かない。


 ――代わりに、俺の手元のスマホ

 (画面の向こう側)に、

 “新しい通知”が届いた。


 《あなたのスレが更新されました》


 そのスレッドのタイトルは、

 《消えた閲覧者の最期(#諸説あり)》


 開くと、

 そこには見覚えのある文章が並んでいた。

 そう――今の“俺の”言葉だ。


> 「駄目だ……見るな!

  スクロールするなって!!」


 それが、誰かのスマホで再生されるたび、俺の視界が赤く染まっていく。

 そして気づいた。


 ――“俺”もまた、小説の一部になったのだ。


 画面の外から笑い声が聞こえる。


 誰かがスレを読み、誰かが恐怖に震え、

そして誰かが“次の主人公”として取り込まれる。


 ページがめくられる音がした。


 真っ黒な文字列の中で、ひときわ赤い一文が浮かび上がる。


 ――《この物語を読んだあなたも、すでに一章目です》


 ……俺は、最後の力で、ひとつだけ書き込んだ。


 > 駄目だ。

 > もう、読まないでくれ。

 > #諸説ありなんて…もう■り■り■…


 投稿完了の音が響く。


 画面が滲み、

 ノイズが走り、視界が完全に崩壊した。


 ――ブツッ。


◇◆◇


 スマホの画面には、

 「新しいコメントがあります」とだけ表示されている。


 タップすれば、あなたもその続きを読めるだろう。


 ただし、それが“誰の物語”かは、

 ――もう、知る由もない。


◇◆◇


> 【END/BAD END】

>

> 次のスレ主:未定

(閲覧者の中から自動選出されます)


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#小説に諸説あり αβーアルファベーター @alphado

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