心と向き合う
戦闘を繰り広げていたトリスタンとヤーロンは脳裏に聴こえたネビュラの声に従い、ほぼ同時にアセスをカードへ戻すとすぐさま逃げの一手を打つ。
「スペル発動ディメンションポート!」
背後に現れる扉へ飛び込み、相対していたシェダとリオも追いかけようとしたが堪えてそれぞれアセスをカードへと戻す。
同時に以前感じたエルクリッドが放つ嫌な気配を察知し、タラゼド達と合流してから気配が放たれる場所へと急ぐ。
「またあいつ暴走したのか!?」
「少しずつ落ち着いてるようですが……以前よりも、何か……」
十二星召カラードとの戦いで見せた火の夢の片鱗。恐るべき力を再び使う状態となったかと思うとシェダ達は不安を思いつつも、やがて木の根と蜘蛛の糸の塊を見つけそれがエルクリッドと察するとすぐにカードを抜く。
「デュオサモン、ラン! リンドウ!」
「スペル発動バインドブレイク!」
リオがランとリンドウを召喚して糸を切り、シェダが木の根を破壊しエルクリッドが解放されその場に倒れそうになるのをタラゼドが支えた。
「エルクリッドさん、大丈夫ですか?」
「あ、タラゼドさん……みんなも……」
何処か虚ろな目をしながらもエルクリッドからは嫌な気配はなく黒い光も帯びておらず、一見すると無事のように見えた。
だがすぐにノヴァがエルクリッドを見上げる眼差しを大きくし、何かに驚いてるのをエルクリッドも察しながら目を合わせる。
「どうかしたノヴァ?」
「エルクさん……髪の色が……」
一瞬エルクリッドは何の事かわからなかったが、ノヴァがごそごそと取り出す手鏡を見て自分の髪色が変わっているのを自覚し目を見開く。
何故そうなったのかエルクリッドは心当たりがすぐに浮かばず、しかし、以前にもあった感覚、火の夢の力の感覚だけは身体にあると感じて俯いた。
「そっか、あたしまた……」
仇敵バエルとの戦いでは出なかった事で大丈夫と安心していたが、再び出てしまった事にエルクリッドの心に影が差す。それにはシェダが心配すんなよと声をかけ、リオもランとリンドウをカードへと戻しつつ優しく頷く。
「火の夢の事も、色々調べてかねばなりません。エルクリッドの持つ力を制御する方法か、あるいは取り除く手段があればいいのですが」
そうですね、と少し弱々しくエルクリッドは答えながら支えてくれてるタラゼドに身を預け、そんなやり取りを少し離れて見ていたルナールがエルクリッドの鎖骨のあたりに指を触れ、ここじゃなと言ってある事を伝える。
「どうやらお主は渇望の種を入れられたらしいな」
「渇望の種……?」
「思いを増幅させ力を引き出す外法の一つじゃ。普通なら行き過ぎた感情だけで済むが……エルフの血を持つとなれば言語存在復元があるからの、少々面倒な事になるのう」
外法を施された事にルナールは触れつつ、さらに踏み込むのは言語存在復元という言葉について。それにはタラゼドとリオが顔をしかめたが、状況が状況と思いその事に触れるのを小さく頷いて承諾し、エルクリッドが問う前にその言葉の意味をタラゼドが明かす。
「エルフ族には言葉を口にすることでそれを現実に反映する力があります。仮説ではありますが、エルクリッドさんの場合は強くなりたいと思う事が呼応してしまい、火の夢の側面が出てしまっているのかもしれません」
「強くなるのが……あたしは……」
振り返ると、強くなりたいと願った時に、負けたくないと思った時にその力は使えている。タラゼドの仮説を聞いてエルクリッドは衝撃を受け、これまで目指し求めていたものが崩れ去るような、求める程に皆を傷つけてしまうと感じて言葉を失う。
誰よりも彼女の近くで前を進む姿を見てきたノヴァは手を握りながら何かを言おうとおもうも、どうする事もできず、それでも振り絞りルナールの方へ目を向け懇願する。
「ルナールさん、エルクさんの身体からその種を取り除く事はできないんですか?」
「取り除いたとしても結局は小娘自身の心が抱えてるもの、それと向き合わねば意味がないのう。まずそれをせねばな」
心が抱えてるもの。それを言われてエルクリッドは多くの思いが心にあると、そしてその中には自分が見て見ぬふりをしたものも、認めたくない思いもあると気付かされる。
様々な思いの中に芽生えたものが良くも悪くも作用している、そしてそれが力を引き出している。エルフの血を持つが故に引き起こすのか、あるいは自分自身のせいか、エルクリッドの心を自責の念が覆い尽くす。
「あたしは、どうすれば……このまま……」
そこまで言ってエルクリッドは言葉を飲み込む。このまま消えてしたいたいと思ったから。
そんなエルクリッドに誰一人声をかけられない中で、ルナールはため息まじりに方法はあると言って一同の目線を集めた。
「先に述べたように心と向き合えば良い。渇望の種自身はあくまで感情の増幅をさせるに過ぎない……揺るがぬ強き心を持つ者には効果がないのはかつてワシが用いた男、デミトリアがそうであった事から証明されているからの」
「心と向き合う……」
十分向き合ったつもりであったがまだ足りないのかとエルクリッドは思えども、でも確かに迷いがないわけではないと思い、どうすればと悩み俯きかける。
そんな所に近づく足音が聴こえて一同が振り返り、意外な人物にエルクリッド達は目を丸くしルナールはほうと目を細めた。
「ガーネット家の巫女か、いつぞやの会議以来か」
「黙れ雌狐ぶち殺すぞ、こっちはとっとと面倒済ませに来たんだ」
現れたのは十二星召が一人クレス・ガーネットであった。水の国の十二星召であり好戦的な彼女が何故来たのかとエルクリッドが疑問に思う間もなく、首筋に向けられる魔剣アンセリオンの刃にびくっと体が跳ねて思わず後退る。
「な、ななな何するんですか!」
「お前をアピスに導けと神託が来た。面倒だが連れて行く、拒否するなら両手足切り落として動けなくしてから連れてく、黙ってついて来い」
相変わらず攻撃的で物騒と思いつつエルクリッドは何度も頷いて承諾せざるを得ず、また彼女が神託という言葉を使った事にノヴァが恐る恐る質問しようとクレスを見上げ、鋭い目付きで睨まれ萎縮しタラゼドの後ろへ隠れ代わりに彼が疑問に答えた。
「クレス様の一族は巫女の一族でもあるのです。神託を受けて導く役割……エタリラの創造神クレスティアの代理人たる御方なんですよ」
「創造神クレスティア……神様、ですよね?」
えぇ、とタラゼドがノヴァに答えるとひゅっとクレスが剣を振ってタラゼドの前髪を少し切り落とし、それには苦笑で応えながらクレスが剣を収めて話を進めていく。
「雌狐、お前のお目付を押し付けられた。責任はとってもらう、逆らえばここで殺す」
「せめて名前で呼べと言うたろうに、まぁ良い。ではアピスへ向かうとするかの」
リープのカードを抜きながらルナールはため息をつきつつ、天の導きとも言えるクレスの存在と、彼女が来た理由とで思っている以上の出来事なのを悟る。
運命の物語は動いていく。求める程に闇は深く、濃く、目覚めていく。
NEXT……
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