廃墟という戦場

 風だけが流れる街キジにエルクリッド達が到着し、気配のなさと風の音の中に微かにある人の匂いを感じたのかルナールが少し頭を上げてここだと言い切る。


「さてここでお主らに一つ相談がある」


「な、なんですか?」


 突然ふっかけるようにルナールがエルクリッド達へ告げると、腕を組みわざとらしく首を傾げながらルナールは話を切り出す。


「一応ワシは十二星召である故、その気になればここに潜む奴らなぞ一人で十分。だがデミトリアの方針は後進の育成、ひいてはその者たちの鍛錬も兼ねて任せるというもの……故にワシが手を貸していいものかと迷っていてのう」


 顎に手を当てる仕草もわざとらしいルナールではあるが、彼女の言うことももっともだと感じて二つ返事するとはいかなくなる。

 とはいえネビュラ確保を考えると、鍛錬目的で力を借りないというのも不自然とも言え、タラゼドが代わりに話を進めていく。


「ルナール様、優先すべき事柄はネビュラを捕らえることないし抹殺と考えます。また恐らくは殺し屋トリスタンとヤーロン、そして脱獄した盗賊ザキラもいるとなるとあなたのお力添えは必要不可欠かと」


「と言っても、ワシのカードは広い範囲を巻き込むでの……それでも良いなら手を貸すが?」


「そういえば、あなた様はホームカードを主軸としていましたね。確かにそれは考えるところではあります」


 ホームカードを主軸とするらしいルナールの戦術にはエルクリッド達リスナーは興味が惹かれる。通常のリスナーはホームカードを支援程度に、短所克服の補助として用いる事が多くドラマを発動させるとなれば知識も要求され、その扱いは難しくなるもの。

 何より広い範囲に展開されるホームカードとその影響は殺し屋トリスタンがバジリスクとの組合せで体感済みであり、味方も巻き込むようなものを避けてくれるルナールの考えも汲み取れる。


 とはいえ仮にも国盗りをしようとした大罪人、どこまで本当かはわからない事もあり返事をしかけたノヴァの口をエルクリッドが塞ぎ、そのまま抱っこして少し離れ、その間にリオが話しを進めていく。


「ではルナール様はタラゼド殿と共に支援をお願い致します。それならば広い視野の上でカード采配もしやすくなるでしょうし、私達も背中を任せて戦えます」


「ふむ……それなら良かろう。ワシは高みの見物をしながらお主らの力を見届けてやろう、それで済めば良いが、な」


 リオの提案にすんなりルナールは承諾しつつ何かを感じているようであり、それを見てすぐにシェダがカードを抜き銀蛇タンザを召喚する。


「偵察頼むぜタンザ」


「あれ? メリオダスじゃないんだ?」


「おいおい今は向かい風でこんなに建物あるんじゃメリオダスは見つけてくれって言ってるようなもんだぞ」


 それもそうかとシェダに返しがらエルクリッドも何かできないかと考えカードを引き抜き、チャーチグリムのダインを召喚するとすぐに何かを察知したのかダインが耳を立て、ぐっと前脚に力を入れたのを見て警戒を強めた。


 ルナールの占い通りにここにネビュラがいる。そして恐らくはトリスタンらもいて待ち伏せされている。

 アセス達の警戒からそれは間違いなく、廃墟という地形で敵が見えない中でどのように戦うのかを考えねばならない。


(風は基本向かい風、でも強すぎるし時々向きも変わるから石化毒が飛んでくるってことは無さそうかな……)


 トリスタンのアセスにはバジリスクのデフィアがいる。触れたものを石化させる黒い吐息を風上からばら撒く事などしてきそうものだが、風の強さ故に拡散しすぎる事や向きも一定とは言い切れない事からエルクリッドはそれはないと考える。


 となれば別の方法となる。未知の相手であるザキラがカードを取り戻してる可能性や、ネビュラが人造魔物を繰り出す可能性も大いにあり、ルナールがいるとはいえ警戒は強く保ちながらエルクリッドはゆっくり歩き始め、次いでシェダ、リオと続き少し間を空けて残る三人が続く。


 タンザは地を這いながら舌をチラチラと覗かせながら静かに進み、エルクリッドの傍らのダインも地面や風の臭いを辿りつつゆっくりと、確実に高まる緊張感の中でリスナー達の集中力は増していった。


 そして大通りの中央付近に差し掛かった時にピタリとタンザが頭を上げて止まり、ダインも唸りながら足を止めエルクリッド達はカードを引き抜く。

 

「スペル発動、アースフォール」


 囁くように聞こえたその言葉にエルクリッド達は即応し、その場から散開して降り注ぐ岩の雨から逃れる。

 土煙が巻き起こるよりも前にタラゼドはノヴァを守る為に結界を張り、煙の中に見えた影から敵の動きを察し叫ぶ。


「シェダさん!」


 土煙の方へ振り返るシェダの前に迫るは透明な身体持つ蟷螂ミネラ。振り下ろされる鎌の一撃を反射的に跳び退いて避けながらタンザをカードへと戻すも、ピンと張られた糸が足に触れて切れたのに気づき刹那にシェダの左右後方よりガコンと音を立てて罠が作動し大岩が迫る。


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