第2話

「ひまわり~君がいた夏」




第二話




「仲間」




その日も天気は晴天だった。




この札幌も七月後半に入り、気温も30℃近くになり、母が買ってきてくれるアイスを毎日食べていた。




少食な自分だが、甘い物を食べている時は何だかホッとする。




趣味で書いている漫画も半分程書き終えた。




時計は夕方近く、四時過ぎを指している。




僕は街へ、狸小路の方へと向かった。




あれ以来、家が近くという事もあり、毎日の様に、あのひまわりを見に行っていた。




今日も元気良く陽光を浴び、ひまわりは力強く綺麗に咲いていた。




ひまわりを見ている最中、ふと、今日は、アヤさん来ないかな、、など考えている自分がいた。




しばらく、その美しい花びらに触れジーッとひまわりを、見ていると、あの日と同じ様にポンっと僕の肩を叩く感触があった。




「勇気君!久しぶりやね! 毎日来とったの?」




振り返ると、アヤさんがジュースを片手に持ち立っていた。




「あ、こんにちは、アヤさん。」




僕は額にかいていた汗をハンカチで拭い、挨拶をした。




「今日も暑いねー!」




続けて彼女は話した。




「勇気君、音楽とか好き? ちょうど今から狸小路で、ダンスショーあるんだけど、観にこん?」




「誰か有名人でも来てるんですか?」




ポカンとした感じに僕は尋ねた。




「エヘヘ、踊るのはうちやで! うち、本業はダンサーなの。んで、私の親友のカズってやつが歌う感じ、楽しいから、是非来てや!」




「あ、はぁ、、」




(凄い、彼女はダンサーなんだ。)




僕が少し迷っていると、アヤさんは僕の手を握り、楽しいから、おいでと言った感じに僕をイベント場所まで導いた。




無邪気に話す彼女は、底抜けに明るく、それでいて、どこかあどけなく、そして時折、その美しい大きな瞳で笑う姿は純粋な少女の様だった。道中、僕は何度かチラリとアヤさんの綺麗な顔を見ていた。




やがて、夕方過ぎの狸小路の外れまで来ると、賑やかに音楽が流れ、ダンスや歌、手品、様々な事を練習している人達がいる。




「ほら!楽しそうやろ、勇気君?」




正直、自分とは随分と毛色の違う人達に一瞬、僕は緊張した。




だが、彼女を目にすると、それまでパフォーマンスを練習していた人達が、皆嬉しそうに駆け寄り、話し出した。




「アヤさん、お疲れ様です!今日はインストラクターのお仕事終えたんですか?」




「アヤ、久しぶり!」




「皆、久しぶりやね!」




彼女はどうやら、彼等の中でも一目置かれる存在らしい。




色んな人達がいて、タジタジとしていたが、ある大柄な(180cm程あるだろうか)男性が僕に話し掛けてきた。




「お!君が勇気君かな?アヤの新しい友達だろ? 俺の名はカズ、宜しくな! 今日のイベント楽しんで行ってくれな!」




そう言い、大柄な身体とは逆に穏やかな声で話し、その大きな手で握手をしてくれた。




(あ、この人がアヤさんが話していたカズさんか、、)




普段だったら、キョドってしまう僕だが、何か彼の中に温かな性格を感じ、




「はい、ありがとうございます、こちらこそ宜しくお願いします、パフォーマンス楽しみにしてます!」




スッと言葉が出てきた。




「お!カズおった、おった、今日も頼むで相棒!歌期待しとるで!」




「相変わらず元気良いな、お前は、久しぶりのイベント緊張しねぇのか?」




「全然!楽しみやん!」




「ハッハッハ、それでこそお前だなアヤ、じゃあ準備するか!」




二人の会話を聞いていると、きっと一年、二年の付き合いじゃないんだろう、無邪気に話すアヤさんを見て、彼等の絆の強さを感じた。




やがて、夏の遅い夜がやってきて、風が少し涼しく感じる頃、アヤさんとカズさんを観に気付けば外国人まで混ざって百人近い人達が集まっていた。




「アヤさーん!!」




「アヤー!!」




「カズさーん!!」




皆がこれから始まるパフォーマンスに興奮している。




「皆、今日は来てくれてありがとう!!Thank you everyone!!」




カズさんがマイクパフォーマンスを始め、アヤさんが準備運動がてら、身体を小刻みに動かし始めた。




カズさんの英語のラップが始まった。


凄い、その流暢だが、パワーのある力強い歌声に僕は感動した。何年ぶりだろう、、こんなに高揚して楽しいのは。




皆に混じり、自分も手を挙げ大声で応援していた。




そして、カズさんの歌がサビのパートに入り、盛り上がりが最高潮に達した頃、僕は自分の眼を疑った。




ブレイクダンスと言う躍りだろう、ダンスに全く詳しくない僕にもすぐに分かった。




アヤさんが空中で一回転して、フワリと地面に着くや、その場で背中を地面に着けながら、何回転もしている。




片手で倒立を決めた後、今度はステップを弧を描く様にテンポ良く刻み、そして次は、指先から身体全体まで波の様に、くねらせ、時には電気が走った様に胸や腕をドンっと停止させていた、後で聞いたが、ポッピン(ポップダンス)と言うジャンルの躍りらしい。




観客達は皆、アヤさんのダンスに釘付けの様で、彼女が技を決める度に皆、熱狂していた。




凄い、身体一つで人々をこんなにも惹き付けれるなんて。。




僕は眼に焼きつける様に彼女のダンスをずーっと見入っていた。




やがて、カズさんの5曲目の歌が終わり、アヤさんがバク宙を決め、イベントは終了した。




皆が壮大な拍手を送り、また、中にはプレゼントまで彼等に渡す人までいた。




「皆、今日は楽しんでくれたかな!?


Did you enjoy everyone!?」




「皆、今日もありがとう!また来てや!」




彼等がそう言い、イベントが終わると、まだ皆、アヤさん達と話したい様だが、二人は、お礼を言いながら、人混みを抜ける様にその場を後にした。




そしてアヤさんはチラリと僕の方を見ると、こちらにやってきて、「30分後に、あのひまわりの所でカズと三人で会おうや!」と小声で言ってきた。




未だ、興奮冷めやらぬファンの人達の間を抜け、僕はコンビニに行き、お菓子と、そして、三人分のジュースを買い、あのひまわりの元へと向かった。




夏の夜も大分暗くなり、気付けば九時頃になっていた。




僕はひまわりを眺めながら夏の夜空を見上げ、アヤさんの卓越したレベルのダンスをビデオフィルムのスロー再生の様に頭の中で何度も思い出していた。




本当にそれだけ素晴らしかったのだ。




やがて、待ち合わせの時間になると、満面の笑みを浮かべスキップしながら、アヤさんがカズさんと共にやってきた。




「勇気くーん!」




アヤさんは変わらず元気な声で僕の名を呼んだ。




「パフォーマンス見てくれて、ありがとうな勇気君!」




「あ、いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます。本当に素晴らしいパフォーマンスでした。ずっと二人を見ていました。」




そう言い、彼等にお礼を言うと、アヤさんとカズさんはファンからの差し入れの大きな大きなハンバーガーを僕にくれた。




「勇気君も夜遅いからお腹減ったやろ?食べてや!」




僕がお礼を言う前に、アヤさんはその小さな口で大きなハンバーガーをパクパクとあっという間に食べていく。




「美味しいー!」




彼女はケチャップを口につけながら、無邪気に本当に美味しそうにしている。




「アヤ、口!」




「うっさいのー、カズ、ほんまに美味しいから、二人とも冷めない内に食べてや!」




「まったく、本当に食いしん坊だからな、お前は、よし、勇気君、俺達も食べようか!」




僕はお礼を言い、皆でしばらく夢中で食べた。




夜ご飯もまだ取っていなかったせいもあってか、その日食べたハンバーガーは本当に美味しく感じた




「それにしても、今日は夜空が綺麗だなー! 星が良く見える。」




カズさんはそう言い、僕達は三人で夏の夜空を見上げた。星空が、本当に綺麗だったのを鮮明に覚えている。




そして、帰り際、僕は彼等に、




「今日は本当にパフォーマンス格好良かったです。呼んで頂いてありがとうございました。 あの、でも、僕みたいな暗い人間をどうして、こんなにも親切にしてくれるんですか?」




と、モジモジしながら尋ねた。




「ほっとけなかったんよ、何だか君の事。」




アヤさんは僕の眼を真っ直ぐに見つめ話した。




「あの日、苦しそうだった勇気君の様に、うちにもカズにも、同じ様な時があったんよ。」




続けて彼女は話した。




「うちら、小さい時から、ADHDって障害持ってて、いつも、動いたりしてないと落ち着かなかったり、、皆、悩みってあるんよね。」




「でも、うちは、その障害があったからこそ、ダンスを大好きになって、、舞う事を止めなかった。人と何か違う自分に涙する時もあって、それでもダンスがうちを救ってくれた。何回も何回も練習して、そして、この街でカズとも出会って。それで、今の自分があるんよ。」




僕は彼女が自身の障害を話してくれて、気付けば安堵した様な気持ちになり知らないうちに泣いていた。




「勇気君?」




アヤさんは心配そうに僕の背中をさすってくれた。




「僕は抑鬱病と過呼吸持ちなんです、ずっと隠す様に生きてきたんですけど、、アヤさんが自身の障害を話してくれて、、障害を持ってても、こんなに、アヤさんやカズさんみたいに輝けるんだなって思うと、、嬉しい気持ちになりました。」




僕がそう言うと、カズさんも、その大きな手で僕の手を握って話してくれた。




「勇気君も自分の障害、話してくれてありがとうな、きっとこれから大人になって、答を見つけていけるさ!」




僕はただただありがたく、彼等の温かさに感謝し、ボロボロと涙を流していた。




そんな僕に二人は温かく何度も再度、背中をさすってくれた。




「勇気君、大丈夫や、うちら応援してる、きっと障害も良くなってく、ね!」




「はい、ありがとうございます。ウゥ」




彼等が温かい言葉を掛けてくれる度、僕の両の瞳から、涙が止まらなかった。




「あ、流れ星だ!」




カズさんが空を指差した。




不思議な事に二回も三回も大きな流れ星がキラリと光り夏の夜空に消えていった。




僕は自分が前に進める様になれますようにと、そして彼等と出会わせてくれて、ありがとうございますと心の中で呟いた。




アヤさんの方を見ると、真剣に、しかし何故か必死に、不安そうに何かをお願いしている様子だった。




僕はこの時は彼女の抱えてる辛さを知らなかった。




皆で流れ星を見た後、カズさんは元気良く快活に、「さぁ、流れ星も見れたし、時間も遅いから帰ろうか!」




と言い、僕達は連絡先を交換して、その場を後にした。




僕は彼等に本当にありがとうございましたと感謝の気持ちを伝えた。




「勇気君、お互い無理しないでゆっくり頑張ろうや! また、何かあったら、うちらに会いにおいでや! そして、勇気君、うちら、もう仲間や!」




と先程までの不安さを微塵も感じさせず、優しく微笑んでくれた。




(仲間。。友達のいない僕には、初めて貰った言葉だった。)




家に帰ると、もう日付けが変わる頃になっていた。




就寝前に母は少し心配した様子で、こんな時間までどこに行ってたの?と聞いてきたので、僕は今日会った嬉しかった事を話した。




「あら、そう、良かったわね、勇気のそんな嬉しそうな顔見るの久しぶりだわ。感謝しなきゃね。ただ、あまり遅くなっちゃ駄目よ、まだ17歳なんだから。」




「今日、勇気の好きなトンカツ作っておいたから、じゃあ、もう遅いから寝るわね。勇気も早く寝なさいよ。」




「うん、ありがとう母さん!」




僕はアヤさんから貰ったハンバーガーを食べた後だったが、不思議な事にトンカツも白米もペロリと平らげた。




身体の内から何だかエネルギーが沸いてくる様なそんな感覚がした。




お皿を洗い、お風呂に入り、寝床に着くと、今日観た彼等のパフォーマンスを何度も思い出していた。




カズさんの誰よりも格好良い歌とラップ。




そして、軽やかで今まで見たどのパフォーマンスよりも美しく舞うアヤさんの姿。




僕は彼等みたいに何か秀でた才があるわけじゃないけれど、今までずっと苦しく、遠くに行ってほしい、お願いだから、もう離れてくれと卑下していた自分の障害を何だか少しだけ受け入れれた様な、そんな気がした。




そして電気を消して寝ようとした時、あの流れ星を見た時、アヤさんの不安そうな顔が頭を過った。




あんな素敵な人でも、きっと何かあるのかな。。しばらく考えていると、やがて眠気がきて僕は瞳を閉じた。




そして、彼女がくれた、「仲間」、その言葉を僕は何度も大切に心の中で呟いた。




夏空に星達が光る夜、その日、珍しく僕は深い眠りにつく事が出来た。



キュン

尊い

ぐっときた

泣ける

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ひまわり〜君がいた夏 @rocky4250

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