AQIRA
きゃんでぃろっく
AQIRA1 ヨーコ
アキラさんのことが好きだった。
だけど俺はその想いを封印した。
男を好きな自分から、眼をそらす為に。
そして、
高校卒業後再会した彼に告白されて、
俺はもう嘘をつけなくなった。
甘い記憶と彼に抱かれる時間が
俺を夢中にさせた。
もう、彼なしではいられなかった。
なのに、彼は去った。
彼を想う時間が、
俺のカラダをひらいてしまう。
記憶を蝕んで、
もうどこへも行けない。
あの日は、
知り合い主催のパーティを、
俺と2人の友がヘルプした。
スーツ着て軽く化粧して
ライター持たされて客の相手をした。
貸切とはいっても、
現場は端まで見通せるし、
俺達も結構楽しんでいた。
集まる人間もまともな方で、
あんまりハチャメチャな
もんにはならなかったな。
もちろん、
俺等も呑まなきゃなんないけど、
適当に呑んでしゃべって
いい気分でこなしていた。
その中に、ヨーコがいた。
俺は、ヨーコの席へ行けって言われて、
ドリンクのオーダーをとりにいった。
メニューを見もせずに、
『バーボンロック、クラッシュで』
と言ったヨーコは、
黒のぴろぴろしたワンピースに、
黒いチョーカーをつけていた。
髪がいい感じの茶系で、
なんとなくそそる雰囲気だ。
感じいいなとは思ったが、
仕事仕事……
ヨーコとはなかなか話せないでいた。
7時過ぎから始まって、
終了予定の10時を超える頃には、
50人程の人数も7人になった。
その中にまだヨーコもいた。
チラチラとヨーコが、
俺のことを見ているのには
早くから気がついていて、
チャンスだな、なんて期待しながら
俺はヨーコの向かいの席へ座った。
で、後から俺の友がヨーコの隣へ。
俺が嫌いな煙草を吸うヨーコ。
火をつけてやると首を少し伸ばして、
顔を傾げる感じが艶っぽくて、
下腹にずくんって堪えた。
美人というのではない、かな。
可愛いでもないな。
ただ、そそるカラダのラインで
口元がやけにイヤラシイ。
で、酔ってるからか、
カラダをくねくねとさせて、
隣の友に寄りかかったり、
腕にしがみついたりと、
ムカつくほどイチャつくんだ。
よくよく話しを聞くと、
ここへは彼氏と来る予定だったらしい。
が、
『捨てられたんだぁ』
らしい。
なるほど、自棄酒。
イチャついて、憂さ晴らし?
てか、そいつでいいの?
つーか、そいつがいいのか?
なんか、
あんま目の前でイチャつくんで
面白くなくなってきた俺は、
隣の席へ行こうとした。
『え? どこいくの?』
あん?
そんなウルウル見んなよ。
『あ〜いやいや、お邪魔なんで!』
と、すっとぼけた声で
おどけて言ったら、
『いて?』
と、言う。
どきゅん。
『そ? いいよ』
と、友を隣の席へ追いやった。
向かい合って座る俺達。
薄暗く、
蒸された香水の香りが、
煙草の煙と共に
もわもわと充満する店内。
カウンターのスポットライトが
やけに眩しい。
『目、かーいいね?』
目を褒める。
『意外と子供っぽいんだ?』
意外性を褒める。
『酔うと、色っぽいね?』
色気を誘ってやる。
『おかわり、スル?』
呑ませる。
というお決まりのステップ。
ま、すでに酔っているんでしょうけど。
で、話も弾んでいい感じ。
に、なったらライトが落ちた。
『あ』
短く声を発したヨーコ。
俺は意図的に隣へ座った。
コイツ男と同じ香水つけてんな、
すぐわかった。
俺も同じのだったから。
『クリスタル好き?』
『ン』
『ふぅん、まだ好きなんだ彼氏のこと』
『え? あ……ン、忘れた』
って言ってるけど、
あ〜あ君、思いっきりダメじゃん。
で、グラリと、
俺の腕に頭を傾けてきた。
ふ〜……ん。
『アフターどっかいく?』
誘った。
『え、あ……ごめん』
と、なんとヨーコは断った。
『そ』
俺も深くは追わない。
『ありがとうございました』
『お疲れぃ』
みんな、散り散りに帰る。
俺は寒くてとりまコンビニへ。
『あ』
『ああ!』
なんでここにヨーコ?
だってさっきタクシー乗ったのに?
『どうしたの?』
『はは、帰りたくなくて』
ここで誘わない男はいないよね?
『あったかいもん、食おっか』
なるべく優しく誘ったら、
ヨーコはふわりと笑った。
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