第18話
これからどうしたらいいのかわからないんだろう。正直僕の同じ気持ちだ。しかし、関わってしまった以上どうにかする他ないのだ。
思考を止めてはいけない。
レオは彼女に近づき、静かに言った。
「何があったのか、僕たちに伝えてみませんか? 何かわかることがあるかもしれません。僕はこれでも貴族様を相手に宝石を売っている宝石商の息子ですから」
セレナは顔を上げ、レオを見つめた。
「……話して、信じてくれますか? わ、私は話すのが上手では――」
「信じます」
「――そう、ですか……。わかりました」
セレナはそう言って、ゆっくりと話し始めた。
「……私はルーフェン家の三女で、妾の子なんです。お母さんも居なくて、離れで生かされてきました。お父様は私のことを少しは気にかけているみたいですが、でも私はテリアお姉さまに嫌われているんです……。私が、誇り高いルーフェンの血を汚す出来損ないだから」
「テリアお姉さまとは、ルーフェン家の長女でいいですか?」
「はい。優秀で、私とは比べ物にならないくらい美しくて……」
テリア・ルーフェン。ルーフェン家の長女か。
どうにも認識が食い違うな。あまり優秀ではないと陰口が叩かれているほどだと聞いていたけど……ルーフェン家の血統魔法もあまり習熟できておらず、まともに使える時間も少ないとか。
そんなテリア・ルーフェンよりも酷いということだろうか?
「それで、だから私はお姉さまと仲直りがしたくて、そんなときメイドの話が聞こえたんですっ。テリアお姉さまは誕生日にお母様からもらった花が大好きだってっ、だからわたし、は」
セレナは話している最中に感極まったのか泣きながら話している。
ボロボロと大きな瞳から大粒の涙をこぼすセレナに、レオは内心困りつつ、近くに距離を詰めハンカチを差し出した。
「ゆっくりでいいですよ。ほら、せっかく綺麗な顔なんですから」
「……ぐすっ」
どうしよう。アクースに目をやるが、アクースもアクースでもらい泣きしそうになったのか目をしきりに擦っている。
ダメみたい。
「……そ、それでぇ、わたし、お花を摘んで、お姉さまに許してもらおうと、思ったのっ。それでここまで来て、レオさまと会ったんだよ」
セレナの話を聞きながら、レオは頭の中で情報を整理した。
……なるほど。衛兵もグラストラ家の息が掛かっていることは確定。しかしセレナ様を誘拐しようとしていたのは何故だ?
というかそもそも、立地的におかしくないか? 果たして、離れで生活しているはずのセレナの耳に、偶然テリア様の好きなものの話題が入ることなんてあるんだろうか。
勘繰りすぎ……かな。
「話してくれてありがとうございます、セレナ様。少し聞きたいんですが、その話をしていたメイドはテリア様の御付きの人ですか?」
「ぇ、うん……」
……嫌な予感がしてきたな。
「ここまでどうやって来たのか、教えて貰ってもいいですか?」
「えっとね、そのお話を聞いてから急いで準備して、メイドさんにローブを貸してもらってね。そして門番さんに通りたいって伝えたら、特別に裏口を開けてくれた……んです。そしてそのままあの門を通って……」
都合よくセレナ様の耳に入るようにテリア様のメイドが話をして。
都合よく知識があるものならわかりやすいローブを用意していて。
都合よく門番が疑問も持たず裏口を開けて。
都合よく衛兵たちもセレナ様に気付かず単独で平民街へ通したと。
グラストラ家だけの問題じゃない可能性が出てきてしまった……もしかしなくても、ルーフェン家の長女が手引きした可能性が高いな……。
グラストラ家はむしろ、僕たちみたいに首を突っ込んだものに疑いの目を向けさせ、真実を隠すため囮か。
それにしても何故セレナ様を誘拐させる必要があるんだ? 三女ということは余程のことがない限り家督を継ぐことはない。放っておいてもテリア様に害はないはず。
「当主様とは仲がよろしいので?」
「……うん。愛して、くれてると思う。私が離れで生活してるのも私が虐められないように父様が取り計らってくれたんだって。たまに、夜中に会いにきてくれるんだ。……最近は、あんまりだけど……」
……ふむ、なるほど。
まだ何とかなる気がしてきた。とりあえずルーフェン家の当主様にどうにか助けを求めれば、少しは生き残れる可能性があるわけだ。
問題はルーフェン家の屋敷が貴族街でも王城に近い、かなり離れた位置にあること。
門は通れないし……いっそ抜け道でも探すか?
「少し宜しいですかい? お客の忘れものが受付の下にありまして」
色々思案を重ねていると、コンコンと宿の扉を叩く音が聞こえてきた。レオはベッドから立ち上がり、鍵を開けようと扉に近付く。
「――ダメ、レオ」
そんなレオの肩を掴み、即座に短剣を構えるアクース。
「……おーい、忘れ物はうちのもんにしていいんですかい? 開けてくださいよぉ」
扉の先から男の声が聞こえる。店主は果たして、こんな若い男の声だっただろうか。
「っあの、開けないんです――」
「静かに。おそらく追っ手です。逃げる準備を」
セレナに声を掛け、急いで逃走経路を考えるレオ。しかし、悠長に考える時間は与えられなかった。
「なんだバレてんのか。頭の回るガキだな」
突如、爆発したように吹き飛ぶ宿の扉。蹴り飛ばされた扉が、そのまま窓を破壊しながら宿の前に落ちていく。
悲鳴が上がるが、今はそんなこと気にしている場合じゃない。
馬鹿げた脚力に騒ぎを恐れぬ大胆さ。
「……レオ。こいつ、強い」
アクースが冷や汗を垂らし、男の隙を伺う。
蹴りを放った姿勢のまま、その男はニヤリと笑った。
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