第三章・無職独身女 ~欲望のまま迷宮で暴れたら再生数が爆発した~(ついでに迷宮も爆発した) 10
~そこから動画を一本、作成した~
驚いた――とは、日葵なりの感想だった。
アリンの行動は、恐ろしく手慣れていた。
収録から動画編集までの流れに淀みがなく、しっかりと予定通りに進んで行く。
編集部分は慣れもある為、予定通りと言うか大体予測出来る範疇内の時間で作成する事が出来るのだが、収録ばかりは難しい。
普段から生放送やライブをしている人の場合は、当てはまらないかも知れないが、一定の目的を持って収録をしている場合『その目的を達成するまでは収録を続けないと行けない』と言う、見えない縛りが存在している。
ここが、結構ネックだ。
簡単に終わる収録内容なら、そこまで気にしなくても構わないのだが……自ら時間の掛かる収録を初めてしまうと、真面目にカリキュラムなど組む事が出来ない。
何故なら、いつ終わるか分からないからだ。
しかしながら、アリンはこの収録部分も効率よくしっかりと行っている。
更に、収録の仕方も上手だ。
しっかりと順序立て、編集しやすい様な収録をしている。
この部分も重要だ。
編集する時に、テキトーな収録をすると編集で泣く!
収録する時は、何処をどんな風に使うかを考え、なるべく編集しやすい収録をして置かないと、後で凄まじく苦労するのだ。
逆に言えば、収録時点で編集しやすく纏めてあると、これだけで編集に掛かる手間が大きく軽減される。
また、今回の収録テーマに合うアクションとかも、意図的に行っていた。
どっかの剣聖みたいに、遠くに居る状態から『目にも止まらぬ速さで』攻撃するのではなく、至近距離までわざと引きつけ、誰から見ても分かり易い倒し方をしていた。
更に、演出なのか?
敢えてダメージを受けたりもしている。
一例として、森に潜んでいたワーウルフの攻撃を『わざと喰らう』事で、豪快に吹き飛ばされると言う『演出』までやっていたのだ。
こうする事で、凶悪なモンスターと戦っていると言うシチュエーションと緊迫感を生み出す事が出来る。
なんともまぁ……凝った演出である。
動画の出来栄えも中々の物で、ちょっとしたドキュメンタリー映画をみているかのような内容だった。
……尚、ツベさんの制限により、過度のグロテスク表現が出来ない為、相手を血みどろにする感じの映像には、しっかりと編集が施されていた。
気配りも上手と言える。
こうして出来た動画は、編集が終了して間もなく、満面の笑みを浮かべてガッツポーズを取るアリンのサムネを添えて、ツベにアップして行く。
反響は、とんでもない物だった。
アップしたばかりの時点では、そこまで大きな反響はなかったのだが……アップして一時間程度が経過した辺りから、急激に視聴回数が伸びて行った。
……以後、時間の経過に比例する形で数値が雪だるま式に伸びて行く。
チャンネル登録者数もうなぎ上りだ。
つい先日まで三桁しか居なかった登録者数が、早くも千人を超えていた。
累積視聴時間も、いつの間にか四千時間を超えている。
これにより、パートナーシップ契約の条件を、アッサリ満たしてしまった。
「どうだ? 私の実力は!」
ツベのスタジオ(管理アプリ)の中にある、ダッシュボードやアナリティクスを見せながら、ドヤ顔をみせるアリン。
なんか妙に威張り腐っている態度がイラっと来る日葵であったが、これには素直に驚いた。
コメントも良心的な物が多い。
中には『いや、こんなの現実で出来るワケないしww』とか『CG乙w』みたいな感じのアンチコメも混じってはいたが、概ね好評だった。
特にアリンに対してのコメントが目に止まる。
「視聴者も私に対して好感を持ってる人が多いみたいだ――特にココなんて良い事が書いてあるぞ?」
上機嫌で答えたアリンは、コメント欄の一つを日葵に見せて来る。
書かれていたコメントは、こうだ。
『アリンちゃんが凄い可愛い!』
「へぇ~……良かったですね」
日葵は無感情のまま、テキトーな相づちを打ってみせる。
理由は実にシンプル。
心底どうでも良いからだ。
個人的に言うのであれば、このチャンネルと言うか、アカウントは日葵の物だと言うのに、日葵本人に対するコメントは全くと言って良いまでに入っていないのが、すこぶる不満だった。
だからと言うのも変な話なのだが、地味に『ムスッ!』とした顔になっている。
「まぁまぁ、お前のコメントもあるぞ?」
微妙にヘソを曲げた顔を作る日葵を前に、アリンはフォローを入れる感じの言葉を口にする。
すると、日葵の瞳に光が宿った。
ついさっきまであった、死んだ魚のような目が、まるで嘘のようにキラキラ輝いていた。
「え? そ、そうなんですか?」
日葵はソワソワしながらアリンへと尋ねる。
心成しか、テンションも上がっていた。
「もちろんだ、お前も動画に映ってたんだから、感想と言うか話題になるのは自然の流れだと思うぞ?」
「な、なるほど! そうですよね!」
日葵は満面の笑みでアリンの言葉に同調していた。
正直、活躍の『か』の字もないレベルで、動画の端っこに立ってるだけの状態が続いていたのだが……しかし、一部のファンが生まれる可能性はあると期待していた。
現時点での再生数は十万を少し上回っていた。
ここまで見てくれてる人が居るのだから、一人ぐらいは自分の事に感心を持ってくれた人が居てもおかしくない!――みたいな事を考えたのである。
思った日葵は、ワクワクしながらコメントを見た。
どう言う褒め方をしてくれてるのかな?……って、胸を躍らせながら視線を向ける。
果たして。
『この、背景になってる女はなんですか? 村人Aですか?』
このコメントに返信。
『違うんだ、う! ただの無職独身女なのだ! う!』
「……って、余計な返信まですんぢゃねーよシズ1000!」
日葵は泣いた!
瞳から蛇口が壊れた水道みたいな勢いで涙をドバドバ流してた。
窓からやって来る光に照らされて、綺麗な虹が生まれていた。
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