私生活に爆轟を求めるのは間違ってるだろうか?(間違い過ぎだ!) 2

『……で、だ? さっきも言った通り、今回のダンジョンは亜空間系のダンジョンだ。う!』


 一拍置いて、本題に移る形でシズ1000が、ノーパソに文字を打って行く。


「そう言えば、そんな事を言ってたね?」 


 文字を読んで、日葵も軽く頷いた。


『玄関がダンジョン入口の亜空間と繋がってしまった事が、今回のダンジョン化なので、入口に繋げている亜空間部分にスイッチの様な物を付けてみたのだ、う!』

「え? そんな事が出来るの?」

『当然なのだ! う~!』


 ポチポチとノーパソを動かしていたシズ1000は、間もなくサムズアップして瞳を『キラーン☆』と光らせた。


「でかした謎人形! あんた天才だな!」


 日葵もサムズアップを返すようにして親指を立てた。


『スイッチは昨晩の内に取り付けて置いた。早速試運転と行こう』

「良いね! 私も普通に自宅で寝たい!」


 日葵は瞳を輝かせて言う。

 実は既に十時間以上は爆睡していたのだが、当たり前の当然のように二度寝しようとしていた。


 そこから、シズ1000が右手を助手席のドアに向けると、ドアがガチャリと開いた。


 まるで自動ドアである。

 これが魔法だと分かっていても、やっぱり地味に違和感があった。


 車のドアを開け、外へと飛び出たシズ1000を見た所で、日葵も車から降りて玄関前まで歩いて行く。


『ドアノブの隣にスイッチがある。ポチっとやってくれ。う!』

「スイッチ?」


 シズ1000の文字を読んでから、再び自宅玄関のドア部分を見ると確かに小さなボタンの様な物があった。


 ボタンの上に〇天堂と書いてあった。

 この文字は必要か?……と、日葵は胸中でのみツッコミを入れながらボタンを押してみた。


 すると――


 ブォン……ッッッ!


 ――機械的な音が周囲に一瞬だけ木霊する。


 一体何が起きたのだろう?

 そうと日葵は思ったが、近くでノーパソを器用に抱えているシズ1000を見る限り、驚くような物ではないのだろう。

 至って涼しい顔をしている。


『これでダンジョンとの繋がりはなくなった。う! ドアを開けると普通に日葵の家に繋がっている筈だ。う~!』

「なるほど。それじゃ開けてみますか」


 内心、実は別の亜空間がもう一つあって、開けたらおかしな所に繋がっているとか言うオチはないよな?……と、地味に疑り深い思考を持っていたりもする。


 だが、今回ばかりはそんな事もなかった。 


 開けた先は、普通に玄関だった。

 子供の頃から見慣れた、いつもの自宅玄関だった。


「はぅっ!」


 普段通りの光景を見て、日葵はその場に座り込んだ。

 途方もない安堵により、力が抜けてしまったのだ。


「まさか、自分の家に戻るだけで、ここまで感動する事になるなんてねぇ」


 勝手知ったる楽しい我が家!

 ……別段楽しくはなかったけど、戻れて良かったと本気で思っていた。


「お? 起きたのか、日葵」


 自称剣聖の声が日葵の耳に転がって来たのは、そこから間もなくの事だった。


 背後からやって来た声を耳にして、日葵は軽く振り向いてから声を返してみせる。


「おはよう自称剣聖。アンタのお陰で快適な車中泊を過ごしたよ」

「……そうか? まぁ、あれが快適だと俺も思ってたんだ」


 純度百パーセントの皮肉を込めて答えた日葵に、アサヒは鉄壁の厚顔によって笑みを返した。


 眼前の剣聖は、日葵が思っている以上にふてぶてしいらしい。


「ま、取り敢えず、車中泊は今日でおしまい。明日からは自宅を使えるみたいだから、そっちに戻るね?」

「ああ、シズ1000がスイッチを作ると言ってたな? もう完成したのか」


 これ以上の皮肉を言っても無駄だと悟った日葵は、嘆息交じりに声を吐き出すと、アサヒは納得加減の相づちを打っていた。


 どうやら、剣聖様も知っていた様子である。


 日葵にとって意想外な声が転がって来たのは、そこから間もなくであった。


「……オイ。私を空気扱いするな」


 微妙にイライラした声音がやって来る。

 見れば、アサヒに隠れる形で、後ろに銀髪ツインテールの女性が立っていた。


 居酒屋で話をしていた女性――痛快無比のぺったん子こと、アリン・ドーンテンだ。


 アリンはアサヒの真後ろに立っていた。

 きっと意図的に隠れていた訳ではないのだろう。

 アサヒの図体がデカかったので、姿が偶然隠れてしまった模様だ。


「あなたは?」


 日葵は不思議そうな顔で言うと、アリンはムッとした顔になる。


「お前には、昨日自己紹介をしてるだろ? 忘れたのか?」

「忘れた」

「早いな! オイ!」


 アリンはおもむろにツッコミを入れた。

 少しは悩めと叫んでやりたい。


「……まぁ、昨日のお前は泥酔してたみたいだしな。仕方ない、もう一度だけ言おう。私の名前はアリン・ドーンテン。冒険者協会の理事をしている」

「ほうほう、理事ですか」


 両腕を組みながら言うアリンの言葉に、日葵は頷きだけを返した。

 心成しか、言葉遣いが丁寧になっていた。


 なんだか良く分からない組織の理事ではあったが、どこかのお偉い様である事だけは分かったからだ。


 ブラック企業に二年も居たせいか、偉い人には地味に腰が低くなってしまう傾向にあった。


 ついでに言うと、あんまり関わりたくない。

 今までの経験上、ロクな事にならなかったからだ。


「えぇと……その理事様が、こんなあばら家になんのご用事で?」


 日葵は出来る限り笑みを作って言う。

 でも、上手に作る事が出来ず、びみょ~にヘンテコな笑みになっていた。


 そんな日葵は、顔でこう言っていた。 

『偉い人は苦手だ!』


「特に畏まる必要はないぞ? 今はプライベートだ。フランクに行こう」

「それは無礼講ってヤツですか?」


 日葵はジト目になって言う。

 内心では思った。


 今の今まで、その魔法の免罪符もどきに何度泣かされたと思ってるんだよ、偉い人様よぉぉぉっ⁉


 無礼講と言われ、フランクに話したらソッコー怒られた記憶を思い出す。

 そこから『無礼講とはそう言うんじゃない』とか、屁理屈で一時間ばかり説教を喰らった苦々しい追憶が、日葵の心をチクチクと何度も刺して来た。


 結果、やさぐれたヘソ曲がりな思考が、現在の日葵には生まれていた。

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