第二章私生活に爆轟を求めるのは間違ってるだろうか?(間違い過ぎだ!)

私生活に爆轟を求めるのは間違ってるだろうか?(間違い過ぎだ!) 1

 今日も今日とて朝が来る。


 やまない雨はない様に、明けない夜もない。

 時が流れ、世が流転する以上、この理を変える事は出来ないのだ。


 流転に取り残されているのは、病んでる独身女だけだ。

 ここは病んだままだし、明けの明星も先送りになりそうだ。


「……ん? 朝?」


 日葵は独り言ちる形で声を吐き出しつつ、その瞳をゆっくり開けた。


 微睡みの中、昨日の事を考える。

 日葵の記憶は、近所の居酒屋で生中を頼んでいた所で止まっていた。


 果たして。


「あああ! からあげ頼んだのに食べてないっ!」


 日葵はからあげによって覚醒した。

 もっと他の理由で目を覚ます事は出来なかったのだろうか?


「あたしのからあげは何処っ⁉」


 注文したのに、一口も食べてないからあげがあった事に気付き、急いで起き上がった所でハタと目をぱちくりさせた。


 周囲を見渡すと、そこは車内。

 庭に止めて置いた愛車の中だった。


「なんでこんなトコに居るんだ、あたし?」


 言ってから、日葵は『う~ん』と悩んでみせる。

 今一つ思い出せない。


 酔った勢いで銀髪ツインテールの女性――アリンに喧嘩を売っていた部分は、綺麗サッパリ記憶から抹消されていた。


 きっと、お酒のせいで記憶を失ったのだろう。

 そうして置こう。


「それより……結局、私は野宿同然な事をしてた訳ね」


 日葵は口をつぼめて言う。

 完全無欠の野宿からすればマシとは言え、車中泊をする羽目になったのなら大差ない。


 気分は災害に巻き込まれた帰宅困難者である。

 生憎、大地震に見舞われてなければ、大雪にハマったわけでもない。


 下手すればそっちの方がマシ説が日葵の脳裏に浮上していたが、そこはあんまり考えないようにして置く。

 きっと悩んだら病む。


 自分の精神保護の為、敢えて考えるのを止めにした日葵は、周囲をキョロキョロと見まわした。


 車内を見る限り、自称剣聖様の姿はない。


 もしかしたら、あのおかしな自称剣聖は自分の夢だったのかも知れない……ああ、夢オチか! なんだそうだったのか~!


 ――とか、思っていたら。


「う、う~!」


 助手席でノーパソをポチポチやってるシズ1000の姿を見付けた。


「もうちょっと夢を見させてよぉぉぉっ!」


 日葵は悲嘆した!

 さっから普通にノーパソをいじってただけのシズ1000が『びくぅっ!』となるレベルで泣き叫んでいた。


 今日も日葵は、地味に病んでいた。


「うう~! う!」


 涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになると言う、ここ最近の彼女にとってデフォルトになりつつ泣き面を晒していた所で、シズ1000が日葵へと声を掛けてきた。


「……?」

  

 日葵はキョトンとなった。

 何かを伝えている事だけは分かるのだが、いかせんシズ1000の言葉は『う』とか『うぅ~!』なので、何が言いたいのか分からない。


「日本語を話せとは言わないから、せめて意思が通じる言語で話してくれない?」

「う?」


 日葵に言われ、シズ1000は少し考える。

 両腕を組みながら、考える事――10秒。


「う!」


 考えがまとまったのか、そこで右手を軽く上げると、ノートパソコンをポチポチやり出した。


 少し間を置いてから、シズ1000はノートパソコンの画面を指差す。


「画面を見ればいいの?」

「う!」


 日葵の言葉に、シズ1000はコクリと頷いた。


 どうやらそれで当たっている模様だ。

 日葵はノーパソの画面に視線を移す。


 すると、画面に文字が書かれていた。


「なるほど、筆談か」

 

 正確には筆談ではないが、やっている事は同じと言えるだろう。


 ノーパソの画面には、こうと書かれていた。


『次元のダンジョンは、亜空間系のダンジョンである事が確定したので、ダンジョンと日葵の自宅を切り替えるチャンネルを作ってみたんだ、う!』

「……チャンネル?」


 文字を読みながら、無意識に口から出た日葵を見て、シズ1000はコクコクと頷く。


 そこから再びノーパソをポチポチ叩いた。 

 

『日葵は知らないだろうから、簡単に説明するんだ、う! ダンジョンには種類があるんだ、う!』

「へぇ、そうなんだねぇ」


 シズ1000の説明に、日葵は一応の相づちを打った。

 ダンジョンと一言に言っても、種類がある……と言われたら『へぇ、そうなんだ』と言う感覚にはなる。


『細かく言うと長くなるから、大まかに言うんだ、う! ザックリ区分けすると、迷宮は三種類。一つは天然のダンジョン。二つはダンジョンマスターが作る迷宮。三つ目は強い能力を持つ概念がダンジョン化した迷宮なのだ、う!』


「ふむふむ。そう言うのがあるのは分かった」


 シズ1000の説明に、日葵は素直に従う形で耳を傾けていた。

 やる事がないので、暇潰しに話を聞いていたのだ。


『一つ目と二つ目に関しては、今回のダンジョンに該当しないので、要点となる三番目だけを説明する。う! 詳しくはウェブで』

「何処のウェブだよ!」


 右手を上げ『キュピーン☆』と目を光らせて言うシズ1000に、日葵は地味にツッコミを入れていた。


『今回のケースは三番目。強い概念が作った迷宮で、ダンジョン自体がモンスターになってるのだ、う! この迷宮は亜空間トンネルで繋がっているから、物理的概念がない。一階が洞窟でも二階が火山とかになってたりする。う!』

「へぇ~。つまり、入口も亜空間になってるから、玄関を開けるとダンジョンになってた訳か」


 シズ1000の言葉を耳にして、日葵は『なるほど』と納得加減の声を上げた。


 そかそか、つまり『どこ〇もドアの原理』なのね――と、猫型ロボットを例に出す。


 因みに、空想力学では有名である。

 地図上にあるA点からB点に向かう最短距離を示す場合、地図を折り曲げてA点とB点をくっ付ければ、それが最短だ……と、言うヤツだ。 

 

 くっ付ける事が可能なら、距離は関係なく最短になる。

 では、どうやってくっ付けるのか?

 

 亜空間トンネルをA点とB点の間にくっ付け、この亜空間を通る事で距離の概念に関係なく、最小距離を移動する事が出来る。

 どこ〇もドアは、この『亜空間トンネル』を意味している訳だ。

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