ゼットさん

「おい、そこのガキ――」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??何してんだアゲハお前はぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「はっ!?オイてめえ待――」



 やっべえ!三下の相手してる場合じゃねえぞ!!!


 俺はすぐさまアゲハの元まで走り、アゲハをボスキャラから引っ剥がした。



「お前なに人様のドレッドを力士の化粧廻しみたいにして巻き付けんだよぉぉぉ!!

 ふざけんじゃねえぞぉぉぉマジでオイィィィ!!」

「えー」

「えーじゃありませんよ!ほらアゲハさん早く謝って下さい!!」

「あっすいませんこの子悪気は無いんです!!ただちょっと頭がギャルでファアフェアリーってるなだけなんです!!どうか命だけはご勘弁を!!!」

「なによー!あーしを舐めんなっつーの!」

「アゲハさんは大人しくしてて下さい!!もー!!」



 こういうときはどうするか?もちろん土下座だ!!

 俺につられたのか、アゲハも土下座してる。俺の頭の上で。



「こ、こらガキ!こんな場所でいきなり土下座すんな!!」

「見ろお前!アニキがすげえ困惑してるだろうが!!」

「あああすいませんすいませんっ!!ほらアゲハ謝れ!最上級に謝れ!!!」

「神☆ごめーん♪」

「あーもー!!このギャル妖精が!!!」



 ゼットさんを煽るな!!マジでっ!!


 ドレッドで表情がよく見えないけど、怒ってる?怒ってるよね??

 ねえ、何か言って?

 俺の視線に気がついたのか、ドレッドヘアーさんは軽くため息をついて話しだした。



「はぁ……まあ、ケジメはつけてもらうか」

「あ、はい!お金ですね!すんませんコレしかないですっ!!」

「お、おう。いや……まあいい」



 俺は自身の全財産の3割ほどが入った革袋を、ノータイムで差し出した。

 残りのお金はブーツの底とか数か所に隠してある。


 ゼットさんは、俺が出した革袋を……何故か、仕方無さそうに?受け取る。



「……お前、街に来たばっかりだな?名前を聞かせろ」

「へへぇっ!あっしはケントっつーしがないギルドメンの端くれでして!」

「リリは、リリエラです!」

「あーしはアゲハよ!キラッ☆」

「ケントとリリエラ、それにアゲハか……まあ普通に喋れ」

「あ、ハイ」

「あーしはこれが素だし!」

「アゲハさんは少し静かにしましょう?ね?」

「えー」



 えーじゃないんだが。


 そんな事を考えてると、ドレッドの隙間からゼットさんと視線が合った。

 あ、間違いない、これ軽く三桁は殺ってる人間の眼だ。



「……仕方ねえ、”人喰いの街”の流儀を、テメエに教えてやらねえとな」

「あ、ハイ」



 これは逃げられないゾ。





 ◇





 俺達はゼットさんを先頭に、入り組んだ街を歩いている。

 まるで迷いなく歩いてるな、もうここが何処だか分からないんだが……。


 そして、さっきから取り巻きの一人で、両肩にカラスの羽根を何本も飾り付けた怪しい兄ちゃんが、抜き身のナイフをくるくる回しつつ、しきりに俺に話しかけてきてる。



「そんでだ、その辺で売ってるのは、ほぼ魔物肉だが……たまにやべーのが有るから気をつけろ」

「やべえって何すか?」

「そりゃあお前、毒肉とかの食ったらやべぇヤツさ」

「うわぁ……」

「あとパンにも気をつけろよ?

 まず、黒いのは木の皮とか混ざってて、不味いし消化に悪いがモノによっちゃ食える。

 次に、茶色っぽいのは大体大丈夫だが、たまにダメなのも売ってやがる。

 そんでな、白くてきれいなパンは絶対食うな。

 ありゃ漂白してるだけだ、食ったら下手すりゃ死ぬからな?」

「は、はぁいっ……」



 もう、怖くて泣きそう。

 迷宮街、マジヤバイ。



「あとな、安いからって肉ばっか食ってると”船乗りの病気”になっちまうからな」

「壊血病か……」

「ま、面倒でも野菜や果物も食えってこった。

 ほら、あそこに並んでる赤い実なんかオレはよく食うぜ」

「……あれ、アゲハに食わされたスッパイ実だ」

「クロウ、おめえはアレ酒に入れるのが好きなだけだろうが」

「あれが酒にメッチャ合うんすよ、ゼットのアニキ」



 ……あれ、もしかして”アセロラ”か?

 あ、そうだわ、値札に名前書いてあるし。

 アゲハのイタズラで、ビタミン補給出来てたとは……。



「とりあえず、何軒かマシな店を教えてやるから、そこ以外で買うなよ?」

「あー、それか肉は自分で狩った方がよさそうっすね」

「それでもいいんだが、狩り場だとナワバリがあってな。うっかり他所の連中の獲物取ってたら、後ろから弓矢でズドンだ」

「あ、やめときます」



 ごめんなさいイザベラさん、もっとちゃんと話聞いておけばよかった……。

 本気で怖いよぉ、この街。



「着いたぞ、ここで6人分買え」

「それでチャラだとよ」

「あ、はい……?」



 そう言われて、さっき取り上げられた財布を返された。


 肉を焼く香ばしい匂い、大ぶりの串、塩焼きだな。

 それを、やたら逞しいオバチャが焼いてる。



「なんだいゼファード、またどっかの子供を拾ってきたのかい?」

「ちっ、そんなんじゃねーよ……」

「全く、相変わらずだねぇ……あら、可愛らしい!フェアリーなんて珍しいねえ!」

「そーよ!あーしカワイイでしょ!」

「アハハ!じゃあサービスしないとね!」

「いいの!?さんきゅーだし!!」



 アゲハとハイタッチするオバサンの腕に、キラキラ鱗粉が……すいません、後で洗ってくださいね?


 焼き上がり、何かの葉っぱでくるんだソレを受取り、300ゴルド支払う。

 6人前でこれは安い……あれ?多くね?



「あんたらも食べるでしょ?3本オマケしといたよ!」

「え?いやそんな悪い――」

「いいから食べな!大きくならないよ!!」

「ア、ハイ。ありがとうございます」



 こういうオバチャンの好意は、”断る”という選択肢が出ないんだよな。

 昭和の下町って感じがするなぁ、実際には見たことないが。



「また買いにきますね!おかみさん!」

「美味しそうね!ありがとだしオバチャン!」



 しかしいい匂いだな、これ多分間違いなく美味い。

 本当に、明日以降も買いに来たいな。


 そして、それとは別に盗賊風のあんちゃんがお金を払って肉串を受け取ってる。

 多分、自分達が食う分なんだろうな……。



 その後、入り組んだ路地を進んで行くと、一つの建物の前にたどり着く。



「あそこっから先はスラムだから、間違って入るなよ?」

「あ、やっぱそんな感じっすか……」



 あの路地の向こう側、なんか雰囲気が違うよな、あきらかに汚いし。


 つまり、ここはギリギリスラムから外れた場所ってわけか。

 うーん、アジトって感じだなぁ。



 ……まあ、俺だって流石に此処までの様子で分かるけど。

 ゼットさん達が、本当はどういう人達なのか。



 薄汚いけど頑丈そうな扉の前に立つと、盗賊っぽい兄ちゃんが、軽快にノックする。

 普通のじゃないな、符号なのだろう。



 入り口が開かないうちに、内部をマッピングで覗き見ると……子供が数人。

 やっぱ、そういう事かぁ。



 やがて扉の閂が外されて、ギギギと開いた。



「ゼットの兄ちゃん!」

「おかえり!ぜっとおにいちゃん!!」

「おなかすいたー!!」

「なー聞いてくれよ今日さー!!」

「おう、まず中に入ってからな」



 子供だ、年齢も性別もバラバラ、全部で6人。

 多分、孤児とかだろうな……。

 きっちり六人前、このはこの子たちのか。



「ケン君、これって……」

「リエラ、まあそういう事だろ」



 俺は、リリエラに向かって頷く。


 ゼットさん、良い人じゃん。

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