第7話『アルヴヘイム』
悲しい…そんな感情が私の心を渦巻く。
「すみれ…?みんな…?」
いつの、誰の記憶なのだろう…。
見たことの無い何処かの、誰かの記憶を見ている。
「ねぇ…返事…、してよ…っ」
◈◈◈◈◈
「アル、さん…っ!」
「メイ、お前はルナを連れてここから逃げろ」
俺はメイに逃げるように促す。
「え?でもどこに…」
「その鳩が宿屋まで案内してくれる。ついていけ」
「は!はい!」
フゥ…、と俺はメイがルナを背負って逃げたことを確認したあと目の前に立っているウルフカットの黒髪の男に問う。
「お前か…?ルナをあんなことにしたやつは」
「あんなこと…はははっ!君こそ、ルナ…いや『ヨハネ・L・サンタマリア』の娘に全てを隠して!自分の好きなようにしようとしている!そんな人の片隅にも置けないようなことをしてよくそんなことを言えるね!」
「…して…い」
「は?なんて?」
「俺は…、あの人の遺言に従っているだけだ」
「プ…、あははははっ!死んだ人間の言うことを聞くなんて律儀なんだねぇ…!」
「何が言いたい」
「いや、だって…!君は親の遺言を破り残りの『九つの龍王』を殺した一族の裏切り者なのにねぇ!」
…こいつは、俺たちのことをどこまで知っている。
「かつて北欧に存在していたとされる『九つの世界』の名を冠し、『龍殺しの英雄』に唯一抗った龍族の生き残りにして頂点『龍王』を殺した大罪人…『アルヴヘイム』君?」
この時、俺の怒りは頂点に達した。
◈◈◈◈◈
「おお…これは…」
アルヴヘイム、と『ボス』に呼ばれる少年を暴走させるために教えてもらった知識はちゃんと役に立ったみたいだね。
「でもほんとにこれは…」
漆黒の翼に黒い蒸気のような吐息…。
それに黒く光る片方が折れた角…これはまるで魔王のようだ…。
「竜魔術…」
「やばっ!」
いきなり魔法使うのかよ!でも…
「!?」
ニヤリッ。
この空間はあえてマナニウムが発生しずらくコーティングしたコンクリート製の壁でできているからね、竜魔術とかいう最上級魔法は封じらせてもらったよ。
さて、どうくる?
「…第一下級炎魔術『火球弾』」
とアルヴヘイムが唱えると同時に部屋全体を覆うように火球が発生する。
「嘘…だろ」
龍の血族はマナニウムの魔法変換率がこの世の種族の中でもエルフ族に次いでトップクラスとは聞くが…チートすぎんだろ。
「でも下級魔術でこれはまじで想定してねぇよ!」
マナニウムを極力減らしてこれなら地上だともっとやばかったろうな…、とりま今は生きるために逃げよう。
「テレポート」
「!」
◈◈◈◈◈
少し時間は戻り、メイ&ルナ+鳩、脱出中。
「ひぇぇぇ!なんかガリガリの男の人が追ってきますぅ!」
「ガリガリじゃねぇ!タルだ!」
「ひぇぇぇ!なんかガリガリのタルが追ってきますぅ!」
「言い直す必要あったか!?」
とりま逃げないと…、でも今はご主人様を背負ってる上に通路が狭すぎて『超能力』を使うのは危険…。
でもあの男の人もすぐ近くにまで迫ってますし…、それにご主人様も凄いと褒めてくれたんです!やるなら今しか…。
「メイちゃんなんてもう嫌い!」
その時不意に頭の中で駆け巡ったのは小さい頃、こんな私に優しくしてくれた友達をその『超能力』で傷つけてしまった過去。
あの時の、あの化け物を見るような目でわたしを蔑むあの顔が今でも呪いとなってわたしの心に、脳裏にまとわりついて離れない。
息が詰まる。
苦しい、嫌だ、嫌われたくない、辛い、やめ
「私はメイが優しいことをよく知ってるから、絶対に嫌いになんてならないよ」
ご主人様があの暗い部屋で、わたしに言ってくれたあの言葉が…まだ出会って日も浅いのに、心の奥底…本心からそう言ってくれたことがとても…嬉しくて、この人について行くと決めたから。
「グラビティ・ゼロ」
「!」
その言葉と同時にわたしの身体は重力から切り離され、タルの頭を壁に通路の出口へと漂い始める。
タルは体のバランスを崩し腰を落とし、立ち上がるまでに出口に到達しグラビティ・ゼロを解除する。
「その重力操作系の超能力…まさか…お前、伯爵家の人間か!」
「わたしはただの親戚です!」
◈◈◈◈◈
アル…私にやっぱり、何か隠してるの…?
…ずっと、ぼんやりだけど…アルに出会ってから…、私が私じゃない「なにか」になっている気がして…怖いよ。
「怖い…よ」
「あ!ご主人様目ぇ覚めましたぁ!」
「…ここ…、は」
「馬車の中です!今はアル様の所へ向かっています!」
「ん…」
アルが戻ってきたら何を話そう、何を聞こう。
私のこと?でもそれを聞くと今の関係が終わってしまう気が…何故かしてしまう。
…アルにいつか、いつかでいいから私の、私について知っていることを聞こう…。
今はただ、…この関係が長く続くように願って…。
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