第6話・黒い虹の欠片を見つけて
タプタプ村で飲まされた、タプタプ茶で膨れたお腹もやっと凹んだセシルは、虹を追って黒い森にやって来た。
今まで、追っても追っても逃げていく虹が、この森の奥では逃げないで残っていた。
(やっと、虹の片側の端にたどり着いた)
セシルは大きな虹を見上げる。
七色に加えて、金色や銀色や銅色も加わった十色の虹だった。
セシルが森に入っていくと、トランプのキングのようなヒゲを生やした魔女が、手提げカゴを提げて虹の欠片を拾い集めていた。
魔女はセシルを見て言った。
「久しぶり、やっとたどり着いたのね……夢と希望の虹の端に」
セシルは、森の中にキノコが生えるみたいに刺さっている、虹の欠片を抜いて手にする。
セシルが、持った途端に虹の欠片は、黒と灰色と茶色の黒い虹の欠片に変わった。
空にかかっている大きな虹も、端から黒い虹に変色していった。
それを見て魔女が言った。
「あら、残念……夢と希望の虹が、絶望と挫折の黒い虹に変わっちゃったわ」
森の雰囲気も一変して、恐ろしい雰囲気の挫折の森に変わる。
どうしたら、いいのか困ったセシルが魔女に助けを求める。
「あたし、どうしたらいいんですか?」
魔女は冷たくセシルを突き放した。
「それは、自分で考えなさい……人生に答えなんて、あって無いようなモノ……どんな選択をしても、必ず後悔はするもの」
「じゃあ、何も選択しない方がいいんですか?」
「それも、生き方の一つだけれど……選択しないと前には進めない、自分の選択が間違っていないと確信するコトね」
森の木々が風で揺れて、それを見た魔女が声をひそめてセシルに言った。
「気をつけて〝ナースナ〟が現れる……すでに、ナースナに囲まれている」
セシルが、どこにナースナが? と、思った瞬間……手が冷たいモノに握られた感触があった。
子供の声が、手を握っているモノから聞こえた。
「ねぇ、君どこから来たの? どこへ行くの? 何を探しているの?」
握っているモノを見たセシルは悲鳴をあげる。
のっぺりとした二足歩行の白い生き物──手や足に指はなく、のっぺりとしている。
のっぺりとした、子供のような生き物の口の辺りが三日月型に割れて、鋭いギザギザ歯が並んだ赤い口が現れる。
「君、膝に擦り傷があるよ……ボクたちが治療してあげる……ヒッヒッヒ」
魔女とセシルを取り囲むように次々と現れるナースナ。
ナースナたちが、口々に言った。
「治療してあげる」
「傷口拡げて、毒薬を塗ってあげる」
「口の中に手を入れて、内臓引っ張り出して治してあげる」
不気味なナースナに、思わずセシルが叫んだ。
「どこかへ、言って! あなたたちなんて嫌い!」
セシルの言葉に、ナースナたちの体が赤くなる、赤い口が青くなった。
「ボクたちが嫌い」
「その言葉は禁句」
「ナースナを怒らせた……セシルの体に毒を流し込んで皮にする」
ナースナの腕が枝分かれして、先端に毒針が出てきた。
それを見たトランプのキングヒゲの魔女が、呪文を唱えた。
「魚にはマブタがある……ネコには足音がある……石は浮かんで、羽毛は沈む……みんな大好き、おせっかいなナースナ」
魔女の呪文に、ナースナたちの体色が白に戻り、ナースナたちは消えていった。
同時に黒い虹の色も十色の虹にもどった。
魔女が言った。
「絶望と挫折の虹は……人生の養分になった」
魔女は、虹の端に近づくと、紫色の部分から傘とたたまれた雨具を取り出して、セシルに虹の欠片が入った手提げカゴと一緒に渡して言った。
「この虹の欠片を持って、タマゴ王女の城にもどりなさい……そこで、料理人国王に作ってもらった虹色のスープをタマゴ王女と一緒に味わいなさい……そうすれば、元の世界へもどる逆さま扉が現れる……また、悩んだり、わからなくなった。不思議なこの世界へ虹を追って来なさい」
魔女が虹の欠片を水滴で包むと、親虹は次第に薄れて消えていった。
雨具を着て、傘と手提げカゴを走るホウキの柄に引っ掛けて股がったセシルは、少し残念そうに魔女に訊ねる。
「あたしの旅は、これで終わりなの?」
笑顔で首を横に振るヒゲ魔女。
「不思議な旅に、終わりはないわ、セシルが夢と希望を持ち続けている間は……たぶん」
いつの間にか、ネコの〝なんでもない屋〟も現れていて、セシルに手を振る。
うなづいたセシルは、走るホウキのエンジン音を響かせて元気に、迷いの森から走り去って行った。
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