第19話 第三王女の突拍子もない依頼 -2
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3. 護衛任務開始とルチアナ姫のマイペースぶり
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翌日。王宮の庭園で、ヒロインたちの護衛任務が始まった。陽光が降り注ぐ中、ルチアナ姫は優雅なドレスに身を包み、まるで散歩でもするように庭園を歩いている。
その後ろを、フィーネを先頭に七人のヒロインたちが続く。フィーネは、姫のわずかな動きも見逃すまいと、神経を尖らせていた。
「フィーネ様、今日は素晴らしいお天気ですわね。
このような日は、庭園を散策するに限りますわ」
「はい、姫様!仰る通りでございます!」
ルチアナ姫はにこやかに微笑み、立ち止まっては珍しい花を鑑賞したり、噴水の水を眺めたりと、なんともマイペースだ。
「姫様、この先は少し人通りが多くなります。念のため、わたくしが前を……」
「あら、大丈夫ですわ。わたくし、人混みは嫌いではありませんのよ」
フィーネが誘導しようとするが、姫はひらりとかわし、意図しない方向へと進んでいく。
「ふむ……姫様の脳波に、好奇心の強い波形が観測されるわね」
「好奇心……ですか?」
「ええ。この先にある、あまり使われていない離宮の魔力反応に、強く惹かれているようだわ」
イリスはルナから提供された情報を元に、冷静に分析する。ルナは、姫の感情の波を強く感じ取っていた。
「ひっ……姫様……とても……楽しそうです……でも……ちょっと……危険な……」
「ルナさん、どうしました!?」
「いえ、なんでも……」
ルナは緊張から、それ以上言葉を続けることができない。アキナは、姫の動きに合わせてきょろきょろと周囲を見回していた。
「姫様、もし何かあったら俺がすぐに守るぜ!正義の盾になってやる!」
「ありがとう、アキナ。頼もしいですわね」
アキナの言葉に、姫はにこやかに応える。リリアは、そんなアキナと姫のやり取りを横目に、どこか不機嫌そうに腕を組んでいた。
「まったく、子供じゃないんだから……」
「リリア様、そんなこと言わないでください」
セラは、姫の歩く道の横に咲いている花に、そっと魔力を与えている。花がわずかに輝き、より鮮やかな色を放った。アリスは、姫のゆったりとした歩みに合わせて、静かな旋律を奏でる。
「おや、アリス様、美しい音色ですわね」
「へへん、姫様が喜んでくれるなら、あたし、いくらでも歌うぜ!」
フィーネは、姫のマイペースな行動と、それぞれのヒロインたちの自由気ままな振る舞いに、早くも胃が痛み始めていた。
「姫様、そろそろ休憩を……」
「あら、わたくし、まだ歩けますわよ」
姫はにこやかに首を振ると、突然、庭園の奥、あまり人が立ち入らないような茂みの中へと足を踏み入れた。
「えっ、姫様!?」
フィーネが慌てて追いかけようとするが、姫はまるで煙のように、ヒロインたちの視界から消え去ってしまった。
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4. 姫の行方不明と捜索開始
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ルチアナ姫が突然、ヒロインたちの視界から消え去った。一瞬の静寂の後、フィーネの悲鳴が王宮の庭園に響き渡る。
「姫様が!姫様が消えましたーっ!」
「なっ!?」
「どういうことだ、フィーネ!」
アキナが驚いて叫び、リリアが信じられないといった表情で周囲を見回す。
「エルミナちゃん!セラちゃん!イリス様!ルナちゃん!アリスさん!
姫様はどこですか!?」
「姫様の魔力反応、消えましたね」
「魔力反応が完全に消失したわ……これは空間転移か、あるいは……」
エルミナは無表情に呟き、イリスが冷静に分析する。セラは困惑した表情で、魔装具をいじっていた。
「まずいです!
王族の護衛中に護衛対象が行方不明なんて、ギルドの信用に関わります!」
「弁償問題になります!見つけないと大赤字に……!」
フィーネは青ざめた顔で叫び、すぐに捜索を指示する。
「ルナちゃん!サイコメトリーで何か分かりませんか!?姫様の記憶を読み取って!」
「ひっ……姫様……の……痕跡が……でも……たくさん……情報が……ありすぎて……どこに……」
ルナは全身を震わせながら、混乱した様子で呟く。情報過多でフリーズ寸前になっているようだ。
「ったく、こんな時に……!ルナ、しっかりしなさい!」
「あんたが使い物にならなくなったら、誰が情報を読み取るのよ!」
リリアがツンデレながらもルナを叱咤激励する。その言葉に、ルナはかすかに反応する。
「イリス様、ルナさんをサポートしてください!
何か手掛かりを掴んで!」
「ええ、分かったわ。ルナ、私の魔力に集中しなさい。思考を整理する手助けをするわ」
イリスはルナの手を取り、魔力を流し込む。ルナの体が、わずかに落ち着きを取り戻した。アキナは、剣を構えて周囲を警戒する。
「どこだ、姫様!
悪い奴らに捕まったのか!?俺が助けに行くぜ!」
「アキナちゃん!落ち着いてください!
まだ敵かどうか分かりませんから!」
「へへん、こりゃあ、最高のミステリーになりそうだな!歌のネタが増えるぜ!」
アリスはこんな状況でも楽しそうにリュートをかき鳴らす。フィーネは、頭を抱えて唸った。
「こんな状況で歌っている場合ですか!私の胃が……!」
王宮全体が、にわかに騒がしくなり始めていた。
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5. ルナの断片的な情報とアキナの高所恐怖症
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イリスのサポートで、ルナは辛うじて断片的な情報を読み取ることに成功した。しかし、その情報は曖昧で、明確な場所を示すものではない。
「……高い……場所……風……の……音……隠された……扉……」
「高い場所?風の音?隠された扉?意味が分かりません!」
フィーネは焦りながら叫んだ。イリアはルナの言葉に、眼鏡をくいっと上げ、思考を巡らせる。
「ふむ……高い場所で、隠された扉……王宮内でそれに該当する場所は限られてくるわね。塔の可能性が高いわ」
「塔……ですか」
「セラ、塔の魔力反応を解析して。エルミナ、もし塔に隠された仕掛けがあるなら、破壊して道を切り開いて」
「はい、承知いたしました」
「まかせてください!」
イリスが指示を出す。そして、一同は王宮の最も高い塔へと向かうことにした。螺旋階段を上る途中、アキナの足がピタリと止まる。彼女の顔は真っ青になり、全身が小刻みに震え始めていた。
「ひっ……た、高い……!足が……すくむ……」
「アキナちゃん!まさか、高所恐怖症!?」
「な、なんだこれ……体が……動かない……!」
アキナは、剣聖とは思えないほど怯えきっていた。フィーネは驚いて叫ぶ。アキナの高所恐怖症は、予想以上に深刻だった。
「ったく、こんな時に役立たずね。ほら、シャキッとしなさい!」
「リリア……お前は……」
「あんたが倒れたら、みんなが危険に晒されるでしょうが!」
リリアはツンデレながらも、アキナを叱咤激励する。だが、アキナは顔を真っ青にして首を振る。
「だ、だめだ……足が……震える……」
「無理しないでください、アキナさん」
ルナが心配そうに呟く。フィーネは、この状況に頭を抱えた。
「こんな時に高所恐怖症なんて……!
姫様はどこに……!」
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