第11話 ー 裂ける町

「遼は町を救った! 今も水に宿り、我らを見守っている!」

祠の跡地に集まった信仰派の人々は、嶋崎老人の言葉を旗印に祈りを捧げた。

彼らは布を裂いて幟を作り、「水巾着鎮護」と記し、井戸に供えた。

「恐れるな、遼がいる」と、声を掛け合いながら。


一方、町の南に集まった拒絶派は憤りを隠さなかった。

「馬鹿げている! 井戸の底に残るのは袋の影だ! 遼も呑み込まれたのだ!」

若者の庄吉は拳を振り上げ、言葉を続けた。

「祀ればまた縛られる。袋は“信じる心”を喰うんだ! 恐怖も、信仰も、全部餌になる!」

その叫びに、多くの若者が頷いた。


やがて両派は広場で鉢合わせた。

信仰派は幟を掲げ、拒絶派は棒を握りしめる。

「信じなければ町は守れぬ!」

「信じるから呑まれるんだ!」

言葉は石つぶてとなり、やがて手も出た。

老人と若者が掴み合い、女たちは泣き叫び、子どもたちは怯えて逃げ惑う。


その最中、井戸の水面が静かに震えた。

遼の声が、確かに聞こえた。


「やめろ……抗うべきは……互いじゃない……」


しかし、その声を「遼の守護」と信じる者もいれば、「袋の囁き」と恐れる者もいた。

声は争いを鎮めるどころか、さらに溝を広げる結果となった。


その日を境に、町は二つに裂けた。

信仰派は祈祷を続け、拒絶派は武器を磨いた。

夜ごと井戸は波打ち、遼の影が浮かび上がる。

その度に町の心は引き裂かれ、憎しみと恐怖は深まっていった。


潮見町は、もはや「水巾着」に呑まれる前に、自らを呑み込もうとしていた。

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