第8話 ー 裂けた未来

遼は叫びとともに袋へ掌を突き立てた。

「お前に町を渡さない!」


その瞬間、鐘の音が頂点に達し、裂け目から白光が迸る。

袋は悲鳴を上げ、無数の顔が泡となって弾け飛び、祠の天井にぶつかっては消えた。


しかし代償も大きかった。

光は遼の肉体を焼き、皮膚は裂け、骨が露わになりながらも、彼は腕を引かなかった。


「持ってけ……俺の命ごと……!」


轟音とともに袋は破れ、祠は水の奔流に呑まれた。

だがその水は、町に届く前に地面へと吸い込まれ、霧となって消えていった。


翌朝、町は無事だった。

だが祠に遼の姿はなく、ただ焦げ付いた掌の跡だけが残っていた。


嶋崎老人は空を仰ぎ、呟く。

「奴は……袋を破ったのか、それとも袋に還ったのか……」


町は救われた。

だが、人々の井戸の底に、夜ごと光る影が揺れるようになった。

それが遼なのか、水巾着の残滓なのか、誰にも分からなかった。

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