第4章 絵を描く理由

第12話 美大入学

中学時代の後半から高校にかけて、私は自ら世界をモノクロに閉ざした。人の感情の色から目を背け、白黒映画と、誰とも交わらない灰色の日々の中に安住の地を見つけようとしていた。けれど、心の奥底では、あの絵の具の匂いが、キャンバスの質感が、私を呼び続けていた。色を憎みながら、色に焦がれている。その矛盾を抱えたまま、私は美大の門を叩いた。それは、失った親友への贖罪であり、呪いのようなこの目と決着をつけるための、あまりにも無謀な賭けだった。




十八歳の春、美大のキャンパスは、制御不能な色の洪水だった。


桜並木を抜けて校舎へ向かう道すがら、すれ違う学生たちの誰も彼もが、強烈な個性の色を放っていた。燃えるような情熱の赤、野心に満ちた鋭い黄色、内省的な深い青、そしてまだ何色にも染まっていない、未来への期待に満ちた透明な光。それらが混ざり合い、ぶつかり合い、巨大な感情の渦となってキャンパス全体を包み込んでいる。中学時代に見たどんな色の奔流よりも、複雑で、高密度で、そして生命力に満ち溢れていた。


久しぶりに大量の色を浴びて、私は立ち尽くすしかなかった。頭がくらくらし、呼吸が浅くなる。中学の時に築き上げたはずの心の壁が、いとも簡単に突き破られていく。ここは、私が逃げ続けた「色」を、肯定し、探求し、そして礼賛する場所なのだ。


最初のオリエンテーションの日、巨大なアトリエに集められた新入生たちは、それだけで一つの巨大なアート作品のようだった。金髪のピアスをした男の子の周りには、自信と好奇心が混じったオレンジ色の粒子が弾けている。ゴスロリ風の服を着た女の子は、繊細な自己愛を示す薄紫のオーラを静かにまとっていた。誰もが、自分の「色」を隠そうともせず、むしろ誇らしげに身にまとっている。


圧倒された。そして、同時に、心のどこかで安堵している自分に気づいた。ここでは、誰もが「普通」ではない。誰もが、他人とは違う自分の色を持っている。だとしたら、この奇妙な目を持つ私も、ここにいていいのかもしれない。


けれど、その期待はすぐに、新たな恐怖へと変わった。あまりにも多くの、あまりにも強い感情の色が、私の許容量を超えて流れ込んでくる。誰かの創作への焦りは、棘のあるマゼンタとなって私に突き刺さり、隣の席の学生の自信のなさは、湿った灰色の靄となって私の足元にまとわりつく。私は再び、あの息苦しい感覚に囚われ始めていた。色に溺れる。他人の感情に、自分の輪郭が溶かされていく。

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