第19話 新米魔法少女ルーちゃんと愉快な仲間たち ⑧


「では、閏さん。話はこれで終わりです。あなたは、明日から普通に学校に通っていただいても大丈夫ですよぉ。学校で、盟約者についての情報でも集めておいてください。なにかあったら、またいつでもこのラボにきてくださって大丈夫ですからねぇ。ああ、一応連絡先も渡しておきましょうか」


 そうして、博士は名刺を渡してくれた。

 ボサ髪の合法ロリが怪しい笑みを浮かべるその名刺には、研究者、ハルキメデス・春木、専門分野、エイリアンと書かれてあった。うさんくせぇ!


「あ、ありがとうございます。……あの、そういえば、委員長はどうなるんです?」

「エイリアン憑きの彼女ですかぁ?」


 春木博士は、部屋の奥の扉へと目線をやった。


「彼女に寄生したエイリアンは、僕が少し解析させてもらいます。解析には時間がかかるかもですが、終わり次第、彼女の遺体は僕の方から警察に受け渡します。僕の知り合いの警官に、エイリアンの存在に理解のある者がいますので、信頼できますよぉ」


(――警察にまでコネクションがあるのか? 本当に何者だ? こいつ)


「エイリアンは、いつ頃くるのでしょうか?」

「それが、僕もさっぱりなんですよねぇ。今日、ということはないでしょうが、明日かもしれませんし、来週かもしれませんし、もっと先かもしれませんねぇ。ただ一つ言えるのは、いつ彼らがきてもいいように準備をしておくことです」

「そうですね」


 私は、スカートのポケットの中の、委員長の寄生紋パロテクトの存在を強く意識した。


「では、椎名さん。閏さんを地上にまで送り届けていただけますかぁ?」

「ええ。わかりました」

 お盆の片づけを行っていた椎名さんが、頷いた。


「閏さん。これを」

 私は、博士が投げ渡したものを両手で優しく受け取った。よく見るとそれは、ワンデイのコンタクトのようだ。


「それを付けておくと、エイリアンの迷彩機能を突破することができます。度入りもありますが、閏さんは裸眼ですか?」

「あ。裸眼です」

「なら、それを使ってください。……あと、これからは周りに気を付けてくださいねぇ。いつ、どこにエイリアンが潜み、あなたを襲うかわかりませんから」


 と、真面目な表情になった博士であったが、すぐにいつもの優しい笑顔に戻った。

「ま。あなたなら心配なさそうですかねぇ。では、またいつでもきてくださいねぇ」

「はい。色々とありがとうございました」


 私は、博士と椎名さんに恭しく頭を下げた。


 椎名さんの先導で、私は地上へと向かった。

 きた時とは別の、部屋からの直通のエレベーターだ。

 しばらくすると、今度は更に人気のない、周りに田畑しかない電話ボックスの中へと到着した。


 こんな場所の電話ボックス、誰が使うんだ? いや、誰も使わないからこうやってエレベーターに改造しているのだろう。


 椎名さんと別れた帰り道、周りに人気がないことを確認してから、ゲトガーが声をかけてきた。

「おい、娘」

「なに?」

「あの二人のこと、あまり信用しすぎるなよ。やつらは、俺らの事情に詳しすぎる」

「……うん。大丈夫」


 私は、暮れかける夕景に遠い目を投げる。


「私が信用するのは、いつだって私だけだから」

「そうか」

 小さく呟いたあと、ゲトガーは続ける。


「で、娘。この首はどうする?」

「あ」


 言われて気付く。私の首には、ゲトガーの牙が存在するのだった。


 私はとりあえず、駅の近くまで歩き、雑貨屋でチョーカーを二本購入した。それでゲトガーの牙を囲めば、奇抜なデザインのチョーカーに見えないこともないだろう。


 道中、首の辺りをじろじろと見られたが、まあ、入れ墨かなにかだと思われているはずだ。大丈夫。


 え? 制服姿の女子中学生の首に入れ墨があるのは変? うわーん。そっかー。まあ、多様性ってことで、ここはひとつ。


「学校はどうするんだ。それ付けていくのか」

「……」


 私は大人しく、薬局で包帯を買ったのであった。

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