拝啓、君へ
@toknokoe
拝啓、君へ
そう、それは君に交換留学の声がかかったときだった。
「ごめん」、電話越しに君はそう言ったよね。
「せっかく新しい家も見つけて、2人での生活が始まろうとしているときなのに…」って。
そのとき僕はなんて言ったっけ。
「留学?今じゃなくてもいいじゃん」って言った気がする。
ああ、あのときの僕はつくづくとんだ馬鹿だったと思う。
勉強だって、遊びだって、あのときにしかやれないことじゃないか。
今じゃもう遅いんだ。
結局、僕のその一言で、君は留学を諦めて日本に残ることを決めた。
僕を気遣ってくれたんだと思う。
でも、それを僕は当然のことだと受け止めた。
きっとあのときの僕はそうしてほしかったんだろう。
あれ程に愛されていたのに、好きだと言ってくれていたのに、まだ愛に飢えていた。
本当に今じゃ後悔している。後悔してもしきれない程に。
このことを友達にも話した。
一人っ子だったってこともあったんだろう。初恋だったのもあったんだろう。
彼らはそう言って、僕は悪くない、と庇ってくれた。
でも、それらは言い訳に過ぎないと思う。
いや、それはただの言い訳だ。自分が悪かったことに変わりはない。
だから、今素直に謝ろうと思う。
それ以外、今やるべきことはない。
心から申し訳ないと思っているし、もっと自分のでしゃばりで甘えん坊な性格は抑えて、君のやりたいことを聞けばよかったと今更だけど悔やんでる。
君は成績優秀で、性格も良くて、こんな扱いづらいわがままな僕にもとても優しく接してくれて、世界のどこを探してもこれ以上の人はいないだろう。
失って気づくものは大きいと言うけれど、僕はこのことを失う前に気づきたかった。
本当に、本当に悔しい。
「ほらほら、過去を見るんじゃなくて今を見よっ。」
君の声が聞こえてくるようだ。
ああ、後ろを見ていても何も始まらない。前を見なきゃいけない。
そんな事分かっているんだ。
でもどうしても前を向けない。
今に何の価値があるんだと思ってしまう。
ああ、もう時間か。
愚痴を君に聞かせたいわけじゃなかったのに。
最後にこれだけは伝えたい。
また来世で逢いましょう。
拝啓、君へ @toknokoe
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