『世界の果てに辿り着きましたが、普通に危険地帯だったので引き返そうと思います』
山岡 きざし
プロローグ 18歳の少女の誓い
私の名前はドニカ・プラーカルム。イルスカーム皇国在住の、今をときめく18歳の天才美少女三流魔導士です。得意な魔法は炎を扱う魔法全般です。あ、でも上級の炎魔法は無理です難しすぎます。それ以外の他属性の魔法もてんでダメです。
でもいいんです、私は自分の才能に誇りに思ってますから。だから何を言われても問題ありません。
———と、まぁそんな私の客観的評価はどうでもいいのですが、私は今「世界の果て」にいます。あの預言通りの場所が本当にありました。どうしてそこが「世界の果て」だと断言できるのかって?
そんなの、そこに住む現地住民に直接聞いたからに決まってるじゃないですか————
『世界の果てに辿り着きましたが、普通に危険地帯だったので引き返そうと思います』
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時は巻き戻り、約一年前の現在。
発端は
元々はもっと昔。多分、昨年建国150年を祝った私が住む国、イルスカームが誕生する前から存在した古い預言だったそうですが、今になって突然話題になったんです。
その「災厄」が来たるとされる、預言が指し示す年が「帝泉歴2026年」なんですよね。そう、来年なんです。
そりゃやべーでしょってことで、これが広まって社会全体が大パニックですよ。
というのも、イルスカーム皇国の公報魔導士が毎日放送する情報番組で、預言に関する特集が組まれて、その中で胡散臭く紹介されたわけですよ。
当然私も見ました。その中で例の預言が記されているというボロ雑巾みたいな古文書を取り出して、これはこうで、あれはあぁで~ってなもんで、まぁそれらしく内容を読み解いて紹介するわけです。
まぁ国営で権威ある情報番組ですよ、受信料も徴収してるような。
各家庭に取り付けられた魔力受信用の四角い黒板に、その番組の様子を魔法で送信してるわけなんですが、まぁ仕組みはいいか。
とにかく、そんな感じで瞬く間に周知された預言は現在、私の地元イルスカームでも終末論が加速する大変な騒ぎになっているわけでございます。
私?あいにく、私はそういう根も葉もないことは信じないんです。くだらないから。
過去に世界滅亡の預言は何度もありましたよ。大きなもので直近で言うと2012年とか、その前は1999年だったかな?他にも細かい預言は無数にありました。
まぁ結局全部外れて、人類は何事もなかったかのように平穏無事に過ごしているわけです。
そんな中、再び舞い降りた預言。もうね、いいんですよ。皆も預言に振り回されるの疲れたでしょって?もう学んだでしょ?って。何回繰り返すのよ、同じことを。
そりゃ私も純粋無垢だった頃くらいはありまして、過去の預言を鵜呑みにして、何も起きなくて茫然とした記憶くらいはありますけど、二回目以降は信じる気すら起きなくなりましたよ。
でもパパとママは毎回信じちゃうんですよね。それでこの前も夕食の時とかに真剣な表情で「この5月の預言、知ってるか・・・?」って言ってくるんですよ、嘆かわしい。
子に離婚を告げる親みたいなテンションで言ってくるんじゃないよ。
両親のことは大好きですけど、この時ばかりは軽蔑してしまいます。私が何度「何も起きないから!」って言っても、その場では納得するような素振りを見せるんですけど、心の底では信じてるんですよね。
・・・話が逸れましたが、要はそういうことです。それで今回世間を賑わせている例の預言。「世界の果て」なんて漠然とした概念持ってきて何がしたいのか分かりませんが、もう我慢の限界です。三流魔導士ドニカ、動きます—————
と、意気込んだのは良いですが、腐っても私「三流」魔導士なんですよね。
「三流」、分かりますか?魔導士の格付けとして、この世には最低「五流」から始まり、「四流」「三流」「二流」「一流」、さらに上の「至流」があるわけです。
「至流」ともなると、もうあらゆる魔法をこれでもかと使いこなし、社会に必要な公共設備を動かすような魔法理論の構築だったり、新たな魔法の開発、研究など、世界の発展のために身を粉にして働く、それはそれはお偉い肩書になるわけです。
この世界では魔法は文明の礎ですからね。
それはそうと、私、ドニカは「三流」なんです。魔導士を育成する高等教育機関ってのがありまして、そこを卒業すると勝手に、というか卒業の証として「三流」の肩書が付与されるわけです。
そこからさらに大学に進学したり、就職したりするのにこの「三流」というレッテルがないとなかなか苦労をすると、そういう話です。
ところが近年では、「二流」以上でないと魔導士を受け入れてくれない企業や大学がにわかに増え始めて、いわゆる就職氷河期の到来だと叫ばれています。
「三流」から「二流」に上がるには国が毎年主催する魔導士国家試験を受けて合格する必要がありますが、受験料は高いし、合格するために最低でも二年は勉強漬けの毎日を送らないといけないとかなんとか。
まぁ就職進学を果たすだけならば魔導士じゃなくてもいいのです。ですが、やはり魔導士として魔法研究や魔法社会機構の一端を担う存在として社会に出た方が生涯年収は良いんですよ。
火を起こすのも魔法、電気を起こすのも魔法、水を浄水するのも魔法。魔法魔法、全部魔法。
魔法を使わないのはモノ作りに関する分野くらいでしょうか?
しかし、最近は魔法を使って物体を変化させることが可能になったとかいう情報を聞いたので、もしかしたらそれすらも魔法で解決できてしまう時代が来るのかもしれません。
ともかく、そんな現状「三流」の肩書を持つ有象無象の一人が私、ドニカです。
大志を抱くのは得意です。だって言うだけタダだもんね。
ですが、今回の預言に関して我慢ならないのは本心。本当にどうにかしてやりたい。
しかし、私は高等学校卒業したての18歳。冷静に考えれば「世界の果て」を目指すのではなく「安定した将来」を目指すべきなんです。
これら問題を両立させなければならない。預言の嘘を暴き、さらに安定した将来を確約させる。
そうだ、あるではないか。私が今話題沸騰中の預言を完全否定しその証拠まで添えることができれば一躍有名人になれそう、いやなれる。
そうなれば色んな機関から引っ張りだこで安定どころか超越した将来が待っているに違いない。短絡的だと思いますか?実際私もそうだと思います。
パパ、ママ、ごめんなさい。私を今まで手塩にかけて育ててくれてありがとう。ですが、私は安定した道ではなく、自分の信念に従って生きます。国家試験を受けたくないとかいう理由ではありません。せっかく持ってきてくれた試験の要項を捨ててごめんなさい。
でも、私は皆が預言に振り回されずに済む世界を作りたいの。勿論、パパとママもね。だから止めないで、私は、「世界の果て」を目指します——————
——————18歳の少女の誓い
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