第6話 割のいいバイト
私が高校生の頃はアルバイトが禁止
だったから、校内コンクールでもらえる
図書カードは貴重な『報酬』だった。
----------
割のいいバイト
----------
夏休みの宿題にだいたいまぎれている
読書感想画や書道の課題。
私はいつも8月30日から取り組んで
いた。
特に絵を描くことは唯一の特技なので、
苦も無く時間をかけずにできる。
というわけで、得意なものは後回し!
だいたい徹夜の最後の最後に描く、
というギリギリマンであった。
ある時徹夜必至で切羽詰まった時に、
ある本のあらすじと1ページ目だけを
読んで、読書感想画を描き上げてしまった
ことがある。
(絶対にマネしてはいけない)
それがなんと、校内コンクールで
金賞を獲得してしまったのである。
賞品は図書カード。
これはお小遣いをほとんど食費と
参考書代に費やしていた私にとって、
貴重な自由費となった。
これは余談だが、この作品は
都道府県レベルのコンクールでも
参加賞程度になった。
その時の賞品はなんとただの
バッジ。
…できればその製作費を図書カード
にしてくれまいか?と思ったのは
ここだけの話である。
さて、この割のいいバイトに
味をしめた私は一年後また同じことを
繰り返すという愚行を働くのだが、
ここで忘れられないエピソードがある。
もともと読書感想画とは、ある種の
学生にとって唯一の能力の発揮、
そして特別な才能の評価場所になる。
普段はなかなか他人に見せられない
技術を、怖気づくことなく堂々と
ふるまえるのだから。
かくいう私も、絵が得意だからこそ、
一年のうちで一定の評価を受けられる
この機会が割と好きだった。
(ギリギリマンではあったが)
しかし、この時の私はたしか
2位か3位か…参加賞くらいの評価
しか得られなかったのである。
(まああんなにギリギリに描いていたら、
当たり前である。
というか本に対する冒涜なので、
しっぺ返しを食らっとけ!という感じ
である。)
「今年は無理だったな~
図書カード…割のいいバイトなのに…」
と思っていたところ、クラスメイトと
彼女の友人という人から声をかけられた。
特に仲良くもないが、声をかけられる
というのは嬉しいので、ほいほいと
お話してみたところ、
こう言われたのだ。
「ずっとあなたに勝ってみたかった。
やっと勝てて嬉しい!」
その人は、この年の校内コンクールで
読書感想画1位の人だった。
なんと答えたか覚えていないけど、
確か「おめでとう?」と言った気がする。
今でもこの、美しく純粋な敵意を
時々思い出すことがある。
学生時代しか持ちえないだろう、
明るい敵意。負けん気。そして
勝つという情熱。
私は確かに負けたのだ。
そして反面、
この1年の間に知らない誰かの
目標として自分が確かに存在した
という事実が、
今の私の自尊感情を支え続けて
くれている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます