駐車場
リュウ
第1話 駐車場
「ここで、時間を潰そう」僕はそう考えた。
ここは、大型商業施設の駐車場。
仮眠するためだ。
僕は、職を変えたばかりだった。
その職っていうのは、ラブホの管理人。
委託だけど。
管理人っていうのは、結構大変な仕事だ。
お金の管理、客の応対や補充品の発注や受取、洗濯物の収集。
従業員の管理。
シフトとか勤怠管理が主になる。
大変なのは、従業員の急な欠勤。
変わりが居なかったら、僕が補わなければならない。
今日は、その仕事に就く。
昨夜から朝まで、清掃の仕事をしていた。
ラブホテルは、一日の利用回数を最大にしなければならない。
一部屋、15分間で掃除を終わらせなければならない。
15分間で、シーツやカバーの取り換え、風呂、洗面所、トイレの掃除、アメニティグッズやシャンプー、リンスの補充を行う。
水回りは、ウェスで水気を完全に取り除き、決まった置き場所にアニメティグッツを置かなければならない。
最後は、コロコロで床に落ちた細かいゴミや毛を取り除く。
汚れや匂いを残さないように注意を払う。
酷く汚された場合は、大変だ。
でも、同棲を始めた彼女との生活を維持するために、少しでも稼ぎの良いこの仕事に就いた。
彼女には、苦労させたくなかったから。
朝方、フロントの椅子にもたれかかっていた時だった。
電話が鳴った。
外線だ。
それは、早番の掃除担当が休むという電話だった。
文字通り24時間対応だ。
その人は、別のラブホの掃除担当者だった。
僕は、ここの他に3件のラブホの管理を任されていた。
シフト表を確認する。
仕事の空いている従業員に電話を掛ける。
空いている人が居ない。
最悪だ。
僕が出なくてはいけない。
生活がかかっているからな。
僕は、店の従業員に仕事を引き継ぐと、シフトに穴があいたラブホに向かった。
そして、今、僕はラブホの近くの大型店舗の駐車場に居る。
交代まで時間があるから、少しでも休もうと考えた。
少しでも目立たないところを探した。
警備員に注意されないようにと。
駐車場で不自然な車を見たことはないだろうか。
つまり、いつまでも駐車しているだ。
郊外の運転の疲れを癒すための休憩所に駐車している車を見たことがないだろうか。
周りには、他の交通手段がないのに。
人がいない駐車車両。
これは、ラブホのお客様だ。
ここで待ち合わせ、1台の車でラブホに向かうということだ。
車から何気なく外を眺めていた。
見慣れた車が停まった。
僕の車だ。
その横にスーと、白のベンツが停まる。
彼女が僕の車から降りて、ベンツに乗った。
僕は、慌てて姿勢を低くして、彼女たちを見張った。
ベンツが、僕の前を通り過ぎる。
僕は、車のシートを倒し、仰向けになった。
車の天井を見つめる。
「今日は、休もう」
僕は呟き、目を閉じた。
駐車場 リュウ @ryu_labo
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