第11話 完璧で危険な妹と危険なお遊び

「あ、やっと来ましたね。お兄さん」


 雪音の部屋に入るととても歓迎された。先ほどあったばかりだというのに。

 あとなんだか寒いぞこの部屋。


「どうしたんだ? 遊ぶっていっても、そんな年じゃないだろうし」

「いいじゃないですか。遊ぶに年齢なんて関係ありませんよ」


 そういいながら雪音は薬の調合をしていた。

 ——薬の調合!?


「お、おい……な、なにやってるんだ?」

「え? 何って……薬作ってるんだけど」


 それを聞いて周りを見渡す僕。

 周りにはいろいろな薬品……とても女の子とは思えなかった。


「そ、それって……家が爆発するなんてことないよな? 成分は!?」

「のーうぉーりー。お兄さん心配しすぎですよ。これはそこまで危険な薬品ではありません」


 と、僕にある一枚の計画書を取り出した。


「……せいてんかん? なにやってんだよ」

「ややや、別にそこまでだと思いますが」


 た、確かに性転換の薬なら僕の研究施設でも試作品はある。難易度はそこそこだが、妹がやってるとなると心配が勝つ。


「でもそれ作ってどうするんだ?」

「どうするもなにも……はい、お兄さん」

「……え?」


 彼女はこちらに微笑んで、先ほど調合していた薬を渡してきた。


「飲んでください」

「無理だろ!! 夏休みつぶす気か!」

「だからですよ。夏休みだからです。長期休み以外で性転換したらいろいろと支障が出ちゃいます」

「で、でもなー……」


 これを飲んだら、こよみ、氷璃に変な目で見られるかもしれない。

 しかし、彼女の言っていることは正しいし、僕自身性転換がどういう効果があるのかは気になる。だがしかしお兄ちゃんという立場を『さよなら』するわけにはいかない。


「すまん! これだけは無理だ。氷璃で試してくれ」

「いやですよ。お姉さんが男になったら困ります。なので、お願いします」


 そして先ほどよりも強く両手を合わせて懇願してくる。

 くっそ……妹じゃなかったら即断っているだろう。妹の頼みならしょうがない」


「……わかった」

「やったー!!」

「でもまて!! 明後日だぞ。明日は予定があるし、夏休みは明後日からだし……」

「まかせてください。それまでに一服盛っておきますよ」

「普通に教えてくれ!」


 まったく、頭はいいんだけど、やっぱりどこか抜けているんだよな。こいつ。


「わかりました。今度、夜中に部屋に侵入してこの薬を渡しますね」

「それでお願い。なるべく固形にしてくれると嬉しいが……」

「いいけど……今日の夜から飲む羽目になりますよ? 吸収に比較的時間がかかるので……」


 た、確かにそっか。こよみの料理を食べている最中に性転換の薬が作用したら困る。いや……どうすればいいんだ。


「……あ、なら、こういうのはどうですか?」

「……え!?」

「先に錠剤を呑んでおいて、次にそのトリガーになる薬を飲むってのは」

「確かに、いやでもそこまでするならもう液体のほうでいいや」

「了解です」


 そういうと彼女は今のことを記録し始めた。

 こんな性格をしているが、意外と生真面目なところがあるんだなと僕は感動する。


「なぁ……学校に行かないのか? 入学式から行ってないって言ったが」

「行かない。意味ないもん」

「い、意味ないって……」

「それに、今からいったらいじめられるかもしれないし」


 確かに今まで学校に行ってなかったのに、急に行くようになると友達ができにくく、いじめに発展しやすい。しかし、いくらなんでも氷璃のように引きこもりにさせるわけがない。

 なんか氷璃という反例があるから強要している気がする。


「んー……僕の職場に来るか? 相談してみるから」

「やや、お兄さんの職場ですか? 確かに魅力的です。次元とかに干渉できるのならいきたいです」

「じ、次元に干渉って……やってみなければわからないな」

「……わかりました。職場の人にお願いしてみてください。私がそこに入っていいのか」


 ただ、義務教育中の女子中学生を施設に入れるというのはどうかと思ってしまう。

 もし国にばれたらあの施設やばいんじゃないか?

 ——いやそもそも現時点でもやばいから関係ないか。


「よくよく考えたんだがいいと思うぞ。だって、今の状態でも十分やばいし、多分独自の法律で来てるから」

「あ、あー。今思い出したんだけどお兄さんの職場って法律通じませんでしたね」

「ご存じの通り。義務教育機関の中学生がいても手遅れっていうか……」


 とはいえ僕はあの施設のことを国にいうつもりはない。

 この物語では絶対にありえない!!

 それに政府もあの研究施設がなくなってしまうことを許容できないはずだ。謎に自信がある。


「……少しお姉さんに近づけるかもしれません」


 彼女は視線を落とし、机の影に隠れるようにしてつぶやいた。


「え? 何か言ったか?」

「やや! なんでもありません!」


 少しだけ雪音について考えを改めないといけない。

 雪音はめんどくさがり屋ではなく、才能を伸ばすところが欲しい、と。


「ではお兄さん。少しだけ買い物に行きましょうか」

「お、いいぞ。でも急だな」

「はい。服を買いに行くんですよ♪」

「雪音がきる服……なにが似合うんだ?」


 雪音もやっぱり女の子だなと思った僕であった。


「やだなお兄さん。私の服じゃありません。ってか、私はこの服で十分です」


 そして夏なのに明らかに冬の服装である上着を直した。

 ……だからここの部屋寒いのか。

 夏だから冷房が効きすぎているのだと思っていたが、どうやら勘違いで意図的に冷たくしているらしい。電気代はお金に困ってないから大丈夫だ。


「買いに行くのはあなたのです。明後日は女の子になるんですよ? なので私の服を貸すわけにもいきません」

「いわれなくても借りる思考にはならないと思うぞ。暑苦しいし」

「やや、兄さんもしかして厚いの苦手なんですか?」

「そうだな。厚い服は動きづらい。何よりもこんなにエアコンをガンガンつけないとなんて……」

「え? 私エアコンつけてないですよ」


 ……え? エアコンを……つけてない?

 じゃあなんなんだこの温度は、って……


「えへへ~、気にしないでくださいよ」


 何この子、すごく怖いんですけど。


「ま、まぁいいや。ってことは雪音ってちゃんとした服があるのか?」

「もちろんです。出かけれないじゃないですか。っていうか、この前初対面の時に上着は気てなかったと思いますが……」

「あ、あー。そういや……」

「それではお兄さん」


 彼女は自身の冷えた手を僕の腕に当てた。


「……買い物に行きましょうか」

「お、おう。わ、わかった」


 そして彼女は無理やり僕を連れて行こうとする。

 しかしその時……僕はあるものを見つけてしまった。


「……お、おい雪音」

「な、なんですか?」


 僕の言葉に彼女は肩をすくめて小さい体をさらに縮めた。


「なんで持ってるんだ? 届出は出したのか?」

「か、核原料物質のことですか? 大丈夫です届出は出してます」


 ……この家に住んでいる人がみな頭がよくなければおそらく許してくれなかったな。


「友達がいないのなら早めに相談しろって言ったよな?」

「ちょっとお兄さん!?」


 まさか核原料物質に手を出しているとは思わなかった。

 氷璃ですら手を出していな——

 いや多分あいつも似たようなもの持ってるな絶対。

 よくよく考えてみればみるほど氷璃の部屋に入るのが恐ろしくなってきた。


「はぁ……核原料物質については、まだ実験で使っていないので大丈夫です。それにまだこの家に引っ越してきたばかりですからね。核原料物質に関しては捨てられないので仕方なくこの家に置いてあるだけです」

「……まぁ、ちなみに何の物質なんだ?」

「ウランですよ。濃縮ウラン」

「まぁウランなら放射線量はすくな——」


 え? 濃縮ウランって言ったかこの馬鹿?


「この寒さって臨界を防ぐためなのか」

「はい、少しでも危険は取り除いておきたいので」


 平然と説明してくるこの女の子がしゃべっているごとにドンドンと怖くなっていく。


「ささ、お兄さん。早くお出かけしましょ」

「あ、あぁわかった」


 ま、まぁ……こいつに気づかれないようにこっそりと研究施設で保管させてもらうか。

 これ以上危険なものを見つけないように……目を閉じながら彼女に引っ張られる。


 さてさて……氷璃に続き雪音もやばいと気づいてしまった以上、これからどう接していけばいいのか……

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