第7話 もう一人の妹

「ねぇねぇお兄さん。氷璃についてどう思ってるのですか?」

「え? どうしたんだよ急に」

「やや、双子の姉がどう思われてるのかって、誰であろうと聞くのではないでしょうか? ワンダーですよワンダー!」


 確かに。双子ではない僕でも、氷璃とかかわりがあったら気になるであろう。


「それにさ、メイトお兄さん。ロリータコンプレックスでしょ? だからどう思ってるのかなって」

「ロリータコンプレックスって……変わった子だな」

「ロリコンって大きくくくったらお兄さんが可哀そうです。ロリコンっていうのは、中学生以下全般を言います。それはつまり、じぇーえーすも含まれるのですよ」

「は、初めて知った。ロリコンってそこまで含まれるんだ」


 というかこの子、少しばかり英語を話したりするんだな。氷璃と違って少しは下手なのだが、おそらくこれはアクセントのために日本人に聞き取りやすくしてるんだな。

 ちなみに規制が出てしまうからか、J〇は、JAと言っている。


「んー、氷璃についてか。そりゃfaultが少々あるがglisteningでadorableって感じだな」

「や、唐突に恥ずかしいこと言いますね。ダメダメだけど輝かしくてかわいいって……」


 なに!? こいつ……恥ずかしいから英語でさらに早くいったのに、


「メイト、実にうぇいあーどきになるって感じがしますね。私、オーストラリア人のお母さんと日本人のお父さんと……ハーフですよ?」

「って、じゃあ君、普通に英語で通じるのか。秘密の話は今度英語ではなそ」

「ややや、英語で話したら読み手がわからなくなっちゃいますよ」

「あーすまんすまん。気を付けるよ」


 オーストラリアの英語が話せるレベルってことは……イギリス、アメリカとは比べ物にならないな。純日本人からしたら。


「でもお兄さんも英語わかるんですね。それともふぃーりんぐですか?」

「あー一応はイギリスに昔いたからな。だからイギリス英語のほうだけどな」

「イギリスイギリス。とぅーいーじーだいじょうぶですよ。オーストラリアとイギリスって親子関係ですから」


 確かにオーストラリアはもとイギリスの植民地だったな。とはいえ、さすがにメイトとかはビビったが……


「まぁいいや。それよりも雪音。すこしだけここを離れないか?」

「え? どうしてですか?」

「……実はな」


 僕は右手に持っていた買い物袋を見せる。


のーうぉーりーしんぱいしないでですよ。わかってます」

「じゃ、家帰ったら花火見ながらバーベキューでもしようぜ」

「ばーびーですか! barbie!」

「そ、そうだな。barbie……バーベキューのことだよな」

「あ、ごめんなさい。つい癖で、それと、こうやって英語を混ぜたほうが父と母で言葉を使い分ける必要がなくって」


 オーストラリアではバーベキューのことをばーびーっていうのか。少しだけ英語の勉強になった。というか、意外とイギリスに行ってても遠いところに行けば言語は変化するものなんだな。


「それとな雪音。今日は高そうな肉を買ってきたんだ。なんと、アメリカ産黒毛和牛だぞ?」

「おー黒毛和牛……でもメイト、本場のところを買ってきてよ」

「すまんすまん、見つけられなかったんだ」


 そう、近くにある肉屋さんはなぜか日本での黒毛和牛はうっていなく、代わりにアメリカ産のがうっていた。別にお金がないというわけではない。


 ---


 たまにはこうやって、そとで肉を焼いて食べるってのもいいかもな。

 僕らはあのまま家に帰って家の庭でバーベキューコンロを持ってきて肉を焼いていた。

 このように火に照らされていると、今まで氷璃との思い出を作れなかったことに悔やんでしまう。


「お兄さん? 大丈夫ですよ。思い出作りですよね? 妹との」

「そうだけど……お前はさ、こういうお兄ちゃんはどう思うんだ?」

「……別にどうとも思いませんよ。お姉ちゃんのことですから、どうせ引きこもって思い出を作れないんでしょう。氷璃は、私とだってあってくれませんから」

「……そうなのか。それが聞けて少しだけ安心したよ」


 そう、安心した。もしかして僕だけが嫌われてしまっているんじゃないかと思っていた。だが、双子である彼女とも会ってくれないと聞いて、失礼ながら安心してしまう自分がいた。


「それに氷璃は……いいやなんでもないや。のーうぉーりーです」

「……え? なんて言おうとしたんだ?」

「いいやなんでもないですよ。それよりもこれ、妹さんに渡してください」


 そして雪音は僕に焼き終わった肉が入っていた皿を渡す。


「めいびーですよ。めいびーですけど……氷璃に関してはそこまで心配はいりません。ですが、それはあなた次第です。あなたがこれ以上氷璃とかかわりたいのか、それともほかの人との恋愛に集中したいかです。妹との恋愛は、いんもらるですよ」

「非道徳的……か。でも彼女はなんか、妹じゃない気がするんだよ。世間一般的には妹に見えるかもしれない。けど! 彼女と僕の関係性は、決して妹とくくれるものじゃないんだ」


 そのまま僕は彼女から皿を受け取り、家の中に入っていった。

 妹との恋愛は、非道徳的。その言葉が僕の胸で反響していた。


 ---


「っで、妹さんはどうでしたか?」


 氷璃にご飯を渡してきた後、自分は雪音のもとに帰ってきた。


「うれしそうにしてたよ。ここにきて初めてのバーベキューだったからな」

「よかったですね。妹さん。それと、謝りたいことがあります」

「……え? どうしたんだ?」

「先ほど言ってしまったこと、訂正します。妹と恋愛に発展するのは非道徳的といったことですが、お兄さんと妹さんは少し変わった状況でしたね。私の話はあくまで血がつながっていた場合。ですので、きにしちゃだめです」

「……なるほどな。さっきの言葉だと、恋愛するのが最大でもお前ってことだからな」


 すると彼女は少し頬を赤らめて微笑んだ。


「何を言っているのですか。それは叶いませんよ? 私の本名すら知らないじゃないですか?」

「……た、確かに。君の名前は?」

「私の名前は……『如月 雪音』。今日からあなたの――

 いもうと、ですよ」

「……え?」


 こうして、僕には二人目の妹ができた。よくよく考えてみたら、雪音の初対面での行動がこれからの関係を向上させるために明るく接してきたからだと考えられた。にしても、妹……夢のようなものだった。しかし僕は……彼女、いや彼女らの――親に出会ったことが一度もないのだ。

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