第4話 「やだっていってんの!!!!!!」
「いただきまーす!」
「どうぞ召し上がれ」
そしてこよみはできたばかりの夕食を食べ始める。
「妹の分渡してくるから、食べててくれ」
「うん。わかった。いつもよりも重いみたいだから気を付けてね」
今日はいつもよりも二倍ほど料理の数が多い。あの約束をしてしまったし、妹は喜んでくれるだろうか。そして……あいつの姿を見てみたい。
「おーい氷璃。持ってきたぞ」
「……」
さすがに返事はないか。夕方話してた時は偶然ってことか。
そのまま僕は食事を置いてそこから立ち去ろうとしたが……
「……兄さん。たくさん作ってくれてありがとう」
「たくさんって……まだ料理を見てないだろ?」
「うんみれてない。けど、一階で女の人と会話してたでしょ? それ……こっちまで聞こえてるからわかっちゃうの」
「あー、確かに」
これは新しいことを聞いたっというか、軽く予測できたことだ。なるべく妹に迷惑をかけないようにしないとな。
「じゃあ、しっかりとすべてご飯食べろよ」
僕は再びその場を離れようとしたが、許されなかった。
「待って兄さん! ……料理の作り方、今度教えて」
「……え!?」
まてまてまてまて、妹が……料理? どんなひどい目にあったんだこいつは**引きこもり**なのに。
「そ、そんなに慌てないで。別に、なんでもないから」
「そうだな。っていうか妹がついにりょう……あ」
妹が料理ってことは……ついに好きな人ができて……
僕の頭に一瞬ウエディングドレス姿の妹が現れた。
(僕が……すてられる)
「兄さん! そこまで重要なことじゃないから。なんなら結婚って、さすがに話が進展しすぎ」
「あ、あーごめんな。妹が料理をしたいなんてありえなかったからさ」
「もう……変な想像しないで。兄さんのバカ」
「わるいなそれは」
僕は扉に背を預けて座り込んだ。そこで気づいたのだ。
(……エロマンガがない!?)
そう、彼女にエロマンガがいきわたってしまったのだ。
「兄さん、あのさ……え、えろまんがのことだけどさ」
「う、うん! そ、それがどうしたの?」
冷汗が止まらなかったのだ。もしこれで妹に嫌われてしまったら僕はこの先生きていけないかもしれない。
「兄さん……あのエロマンガって兄さんのおすすめ?」
「……え?」
「いやほら、兄さんが……もう! おすすめを渡してきたのかなって」
……いったいどんなジャンル渡したっけ。棚買いしたからわかんないや。
「ま、まぁそうだな。うん、多分」
(んなこといってジャンル聞かれたらどうするんだよ!)
僕に、僕に……何をやっても崩れない建前が欲しい。
「兄さんって……大胆なんだね。お勧めのエロ本って、妹じゃなかったら怒ってたよ」
「……え? 僕を怒らないのか?」
「怒らないわけないじゃん、だって、私がマンガを買ってきてっていって、兄さんが私のためにマンガを買ってきただけでしょ? そ、それが偶然兄さんおすすめのエロマンガってことで」
ことがいいほうに進みすぎている。何か不安になってくる。これでまさか妹が引きこもりを脱却するのか? いや、でも引きこもりのままでもいてほしい。
「……あり……とう」
「……え?」
「……ありがとう。マンガ、うれしかった」
え? 感謝された?
「エロマンガ……好きだったんだな」
「好きじゃないし」
「よければおすすめのジャンルを教えてほしいな」
「……やだ」
「……え? ごめん兄さん聞こえなかった」
『やだっていってんの!!!!!!』
彼女は声を荒げた。ちょっと攻め込みすぎた。
「もう、兄さんったらいい感じになったらすぐそんなこという」
「ごめんごめん。っと、僕はもうそろそろ一階にお客さんがいるから」
「うん。わかった。じゃあね、兄さん」
僕は彼女の言葉に後押しされたかのように、きれいに階段を下りて行った。
---
帰り際、こよみと少しだけコミュニケーションをとっていた。内容は妹のことについて。
「ねぇ君の妹……声かわいいね」
「……え? ど、どうして急に?」
「いやほら、食事中にさ、大きな声がしたから……きっとあれが君の妹なんだね」
確かに大きな声を出していた。え? 嫌がられてるの聞かれてた?
「それにさ、君……結構大胆なことするんだね。妹にエロマンガ渡すって……普通では考えられない君特有の行動。おもしろいね」
妹にエロマンガを渡していたこともばれてしまっていた。たしかにそうだ。どうやら僕は疲れていた成果はわからないが家の間取りを甘く見ていたようだ。僕の家の二階には吹き抜けがある。つまりそこを通って二階の声が一回に聞こえるなんてことは怪獣映画の人間の声よりもはっきりと聞こえるさ。
「い、いやこれはわけがあって……」
「……しってる。妹の引きこもりを脱却させてあげたかったんでしょ?」
「う、うん。そうだな。引きこもりを脱却してあげたかった。このままじゃあいつ、僕に頼りっきりになるかもしれないんだよ」
「……なるほどねー。ま、優しい優しい。私だったら引きこもりに対してこんなことはしないよ。ずっとほおっておくかも」
そんな悲しいことを言う彼女だったが、急に話の方向が変わった。
「そういえばらいらさんが明日の仕事で話したいことがあるってさ」
「……話したいもの?」
「さあね、私にも教えてもらってないしわかんないや。でも、女の人にモテモテじゃん君。ここまで求められる男ってそこまでないよ?」
「……僕なんてダメダメだけどな」
だれも重度のシスコンなんぞ相手にしてくれないだろう。
なんて考えていると、こよみは僕の前に立った。
「ま、そんな暗いこと考えるなって。それにだれもシスコンだってこと気にしないよ」
そう言い去って彼女は帰っていった。
(……え? 僕が重度のシスコンってこと、ばれてる!?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます