第5話 いままでも、これからも

 その人も僕も、すごくびっくりしてた。

 いきなり、お腹がパァン!! ってなってたから。


 僕はその人の手を取ろうかどうしようか迷っていたけど、伸ばしてくれた手に触れてはいなかった。


 取っていれば、助けられただろうか……?

 それとも一緒に二つに別れてしまっていただろうか??

 一瞬の迷いが命取りになるんだって、その時実感した。



「うーわ、サイアク。ごめんね、変なもの見せちゃったね、大丈夫??」



「……元気じゃん!!!」



 驚きすぎて友達に話すみたいに普通に会話してしまった!!



「いや、一応私も天使みたいな善良な役員だしさ。強いんだよ、これでも!! この公園ホントに変なの多いね」

「えっ……」

「うん、私の独断だけど、キミ仮合格にしちゃう!!」

「は?」

「私ちょっと 上に伝えてくるから、キミはここで公園を守ってて!! 一応今まで勝手にやってたのは無かったことにしとくから! 今までどおりに変なのから守ってあげてね!!」

「僕の話を聞いて!!」

「なにかな?」



 そこでようやく、普通に話せるようになった。僕は地縛霊にはならずに、天使(仮)になった。そのお兄さん(お姉さん?)が上ってところに行っていろんな手続きをしてくるから、その間に素質があるらしい僕が、これまで通りに公園での事故や事件から守ることになった。内容としては何も変わらないんだけど、『公認』というものになったらしい。よくわかんないんだけど。



「公認ってのがあるだけで格段に動きやすいよー。いやー、キミみたいないい子がいてホントに良かったぁ!!」



 言ってることがさっきと違う気がするんだけど、気のせいかな??



「公認があるだけでキミの精神もちょっと成長できるからね。いろんな見方ができるから。まぁ、それが良いことが悪いことか、分かるようになったら教えてね! 私が戻るまでよろしくね!!」



 そうして、その人はキラキラと消えてしまった。……そこでキラキラするんだな……なんてどうでもいいことを考えてしまったけれど、よく分からずに、何も変わらなかったはずなのに、実感がないまま天使(仮)になってしまった。これまでと同じように、困ってる人も助けてほしい人も動物も、みんな助ける。僕がやりたいからやる。


 ブランコから落ちそうになった子も、滑り台の階段から足を踏み外した子も助ける。ベンチに座ってはぁっとため息をついてる大人には、トントンと背中を叩いてあげる。前よりもすごくやりやすくなった。


 たまーに、本当にたまに。意識はしていなかったはずなのに、『ありがとう』と言われることが増えた。

 僕は幽霊だから、見えるはずがないと思っていたけれど、どうやらこれが公認ってやつだと思ってる。


 そのうち、何気なく言った言葉を、覚えている子が出てきた。

 なんでもない気持ちで『またね』と言ったら、その子もまたねと手を振り返してくれた。

 『信じていれば良い』と伝えたら、その子はずーっと信じてくれて、それを孫に伝えててくれた。

 一人じゃ立てなさそうな子がいたから、友達に手を出すように仕向けたり、背中を押したりしたら後ろを振り向いてくれたり……。

 数え切れない『ありがとう』をもらった。


 ずっと、あのときのお兄さん(お姉さん?)が戻ってきたら、この役目も終わりだと思ってた。投げやりにはなってないけど、僕よりもちゃんとした天使がいたほうが良いに決まってる。だけどあの人は、何十年経った今も、戻ってきていない。上、というのがどこだかわからないけど、連絡もない。

 だから、僕は今でも、この公園を守り続けている。


 ウソっ子天使と言われようと、天使なんかいないと言われても、僕以外に、一人ぼっちで死んでしまう子どもがいなくなるように。

 あの時あの人が言ってくれた言葉を、僕はずっと心に秘めている。



『ごめんね、遅くなって。でも今はもう一人じゃないから! もう頑張らないでゆっくりして良いから!! 私と一緒に行こう!!』



 とても嬉しかったから。だから今度は僕の番。


 あの人が何者でも。僕も誰かに、『一人じゃないよ、一緒だよ』と伝えたい。


 思いきり、手を伸ばして。


 今度は、手をつなげるように。







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公園の天使 冴木花霞 @saeki_kasumi189

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