第3話 話し終わったら


 いつの間にか閉じていた瞳を開けると、兄妹はにこにこと聞いていました。

 

 ──そう思いました。


 兄の顔が、一瞬、あのときの彼の顔に見えたのです。


「えっ……!!」


 もちろん、目の錯覚だと思いました。


 目を閉じて昔話をしていたが為。幻覚を見たのだと思いました。

 あるいは、ずっと、会いたいと願っていたために、年の頃が同じくらいの孫に重ねてしまったのだと。


「おばーちゃん?」

「びっくりしてる? あ!」


 妹が、わたしを見ながら声をあげました。なぁに? と答えながら自分の目をこすり、幻を追い払おうとしました。


「窓に来て、お兄ちゃん!」

「うん! ほら、おばーちゃんも!!」


 二人は、こっちこっちといいながら、窓へと駆け寄ります。


 孫たちを追いながら窓の外へと目を向けて、本当に驚きました。


「また来てくれたんだね、あの子」

「あの子もおばーちゃんのお話、大好きだよね♪」


 窓の外にいたのは、あのときとまったく変わらない姿の、あの男の子だったのです。

 孫たちにも見えているなら、わたしの幻ではないのです。そう思うと、嬉しくて嬉しくて、涙があふれてきました。


「今日は、なにしに来たの?」

「おばーちゃん、お話してくれたよ!」


 三人でにこにこと笑いあいながら、何やらお話をしています。わたしはそれを見て、もうなにも我慢できなくなりました。


「あの、わたしのことを、覚えているかしら? 小さいときから、あなたの言葉にどれだけ支えてもらったか、数えきれないわ」


 窓のサッシに手をかけて、背筋を伸ばして、わたしは彼に向かって頭を下げました。


「あの時も、今までも、本当にありがとう! ずっとお礼が言えないままになってしまってごめんなさい。だけど、忘れたことなんて、なかったわ」


 わたしの言葉を、彼は静かに聞いていてくれました。


 わたしの身勝手な懺悔でしかなかったのに。


 あのときと同じように、にっこりと、微笑んで。


「ぼくはなにもしてないよ! でも、ありがとう。ずっと、忘れないでいてくれて」


 わたしには、勿体ない言葉でした。


「おばーちゃん?」

「どうしたの? どこか痛いの??」


 突然涙したわたしを、孫たちは心配してくれました。そしてそんなわたしたちを見て、彼はまたにっこりと笑いました。



「ありがとう。信じてくれて」

 

 

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