第08話 日本流「五戒」

 日本では聖職者でも、肉食妻帯が禁止されないといったように、「五戒」が日本流に定められている。


[newpage]#01 仏教が百済より伝わり、五戒倫理が導入される

 記録文明は都における、技術・技能として発達したが、文字が浸透するにつれて、五戒のような形で、しるしの活用が拡大していった。

不殺生戒:生を奪い、殺してはいけない。

不偸盗戒:人のモノを、盗んではならない。

不邪淫戒:邪な性行為を、行ってはならない。

不妄語戒:嘘を吐いてはならない。

不飲酒戒:飲酒によって、我を忘れてはならない。

 五戒が、日本に伝来した時、かなり日本流に、五戒の意を曲解している。仏僧であっても、肉食妻帯が、日本では許されるように、日本流五戒が定められている。


[newpage]#02 日本流“五戒”

 不飲酒戒は、日本では飲酒そのものの禁止ではなく、飲酒によって行動の理を失ってはならない。般若湯など、名称だけを変更したのではなく、酒を飲むことを禁止したのではなく、酒を飲むことで理性を失うこと、暴力を振るうといった危険行為を禁止したのである。日本では、飲み過ぎは、良くないですよ、程度の話。

 不妄語戒は、“言霊ことだま”を大切にする日本では、最も重い禁止事項であり、倫理的にも法的にも許されない行為として捉えられている。人を殺す以上に重く、日本流の五戒では、最上位に位置する。

 不邪淫戒は、倫理的に問題がある、性行為の禁止である。日本では、肉食妻帯が僧侶に対しても認められるように、邪淫の範囲が非常に狭い。つまりは、淫行の範囲が、あまりにも広く捉えられているため、邪淫の定義が難しい。

 不殺生戒は、生きている命を、むやみに、奪ってはならない。生命の範囲は、一寸の虫にも五分の魂とあるように、虫であろうと人間であろうと関係なく、生きとしけるモノすべてを対象としている。

 不偸盗戒は、盗んではならないであるが、モノを盗んだという行為を定義するには、所有権の確立が必要となる。縄文期の所有権は、首飾りや衣服といった、身に着けているモノが、対象であった。問題なのは、落ちているモノで、身につけていないモノに、所有権が及ぶのかがである。身に着けていないモノに、所有権が及ばないので、落ちているモノの所有権は、拾った人間に移行することになる。

 仏教の中で、偸盗の範囲は、与えられていないモノを、所有する行為まで含まれている。地面に落ちている誰かが所有していたモノは、与えられていないモノであり、拾う行為は、所有していたモノに返す場合に、許容される行為となる。

 日本流の五戒で、最も、議論が多くなり、様々に変化していったのが、偸盗に関する考え方である。

 不殺生戒と不偸盗戒は、モノを破壊した場合、殺生と偸盗、を行ったと考える。

 モノの破壊行為も、日本では、禁止事項である。山川草木に神が宿る日本では、モノの破壊も禁止項目の対象となる。モノに命が宿り、モノを破壊する行為は、殺生と同じとなる。


 不妄語戒、不殺生戒、不偸盗戒、不邪淫戒、不飲酒戒の順が、日本における、五戒の優先順位となる。

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