月明かりの嘘
sui
月明かりの嘘
月の光が湖面を白く染める夜、少女は空を仰いでいた。
「どうして今日は星が見えないの?」
隣に座る青年は、しばらく黙ったあと微笑んで答える。
「星たちは眠っているんだ。君のために、もっと強く輝く準備をしているんだよ。」
少女はその言葉に安心したように息を吐き、湖へ目を落とす。
けれど青年は胸の奥で痛みを覚えていた。ほんとうは、星々が力を失い、もう二度と戻らないかもしれないことを知っているから。
——嘘を選んだのは、自分のためか、それとも彼女のためか。
その答えを見つけられぬまま、彼はただ寄り添い続けた。
夜が更け、静寂が二人を包み込む。やがて薄雲が割れ、ひとつの小さな星が顔を出す。
少女は目を輝かせて言った。
「ほんとだ…眠っていただけなんだね。」
青年は微笑んで頷いたが、その瞳には淡い影が宿っていた。
たとえその星が最後の灯火であったとしても——彼女が希望を見られるなら、それでいい。
寄り添うとは、真実を語ることではなく、ときに痛みを背負って共に沈黙すること。
青年はそう知りながら、月の光に照らされて少女の横顔を見つめ続けた。
月明かりの嘘 sui @uni003
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