このまま行っちゃえ。
にのまえはじめ
第1話
修学旅行で初めて京都に来た。
私にとって、親不在の外泊は初めてだ。
金閣寺などの定番のコースをバスで巡り、宿に到着。早めの夕食と入浴を済ませた後、新京極商店街でお土産を買うことになっていた。これも定番中の定番。
集合時間の5分前、私は重大なミスに気がついた。
寝間着に着替えてしまっていたのだ。
普段入浴後に外出する習慣がない私は、寝間着用のヨレヨレのTシャツと、ペラペラの短パンという、街に買い物に繰り出すのにはあまりに防御力と女子力の低い装備に身を包んでいた。
どうしよう。外出用の服は鞄の奥に仕舞ってある。今から着替えていたら集合時間に間に合わない。
ま、いっか。このまま行っちゃえ。
一緒に買い物する約束をした友達もいないし、どうせ私の服装なんて、誰も気にしていないに決まっている。大事な所が布で隠れていればそれで充分でしょ。
そんな投げやりな気持ちで、私は客室を出た。
廊下に、同じタイミングで客室から出てきた男子がいた。同じクラスの加藤だ。デリカシーのないお調子者で、クラスメイトを変なあだ名で呼ぶのでクラスでも浮いている。私も苦手だ。
加藤は私に気が付くと、私の全身を舐めるように見た後で、ニヤニヤしながら近づいてきた。
まずい。気づかれたか。
「ねるねる、お前、それパジャマじゃね?」
やっぱり。何で気づくのよ。
どうしよう、クラス中に言いふらされるのは御免だ。
私が返答に窮していると、加藤はもっとに近づいてきてこう囁いた。
「実は俺、今、ノーパン。みんなには内緒だぜ?」
何でも家で荷造りをした時に、替えの下着を入れ忘れたらしい。
私は思わず吹き出してしまった。上には上がいたものだ。
加藤は照れくさそうに下手くそなウインクをして、集合場所へ駆けて行った。
結局、私がパジャマで京都の夜の買い物をしたことは、彼以外には気づかれなかった。
修学旅行で木刀と生八ツ橋を買う前にコンビニでパンツを買ったのが、旦那の一番の思い出だそうです。
このまま行っちゃえ。 にのまえはじめ @ishibaki626
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