第6玉

第6玉「大学生活」



伝説の一夜から数日――

玉男は、すっかりパチンコにのめり込んでいた。


授業をサボる日が増え、家でもノートを開かず、夜遅くまでホールの光に包まれる生活。

ランキングボードに名が載るたび、心は燃えたが……

ふと我に返れば、単位は危うく、出席日数も落単寸前だった。


「おい、玉男。いい加減マズイぞ」

岡田が溜息をつく。

「ヒッターだなんだって言っても、単位は出玉で交換できねぇんだからな」


渋々、玉男は岡田と一緒にキャンパスへ向かった。

久々の校舎、聞き慣れたチャイム、無数の学生のざわめき。

だが玉男にとって、ここはもう“戦場”ではなかった。


「……退屈だな」

心のどこかでそう呟いたとき――


「玉男!」


背後から声が飛んだ。

振り向けば、ショートカットで活発そうな女の子が立っていた。


中野明菜(なかの・あきな)。

玉男の幼馴染で、同じ大学に通うクラスメイト。



「ちょっと!全然大学来ないじゃん!心配したんだから!」

明菜は腰に手を当て、ぷりぷりと怒っている。


玉男は気まずそうに頭を掻いた。

「……いや、その、ちょっと忙しくて」


「忙しいって何に?またゲーム?バイト?それとも……」

言いかけて、明菜の視線が玉男の目を射抜いた。


「……まさかパチンコ?」


玉男は思わず目を逸らす。

図星だった。


明菜は呆れたように肩を落とした。

「ほんとに……。子どもの頃から変わってないよね。夢中になると他が全部見えなくなる」


「……」


「でもね、あんたが単位落として大学辞めるなんて、私が許さないから」


ぷいっと顔を背けながらも、声にはどこか優しさが滲んでいた。


岡田が横でニヤニヤしている。

「おーい玉男、幼馴染に説教されてんぞ~」


玉男は顔を赤らめ、口ごもるしかなかった。



叱られたはずなのに、不思議と胸が少しだけ軽くなる。

明菜の存在が、玉男の心をほんの少しだけ現実に引き戻していた。


だが――その胸の奥で、まだ“銀玉の炎”は燻っている。


次なる戦場へと誘うように。

新たな強敵との邂逅が、すぐそこまで迫っていた。

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