第5玉

第5玉「決着の時」



パーラー銀星――

「大海物語」の島に積み上がる、まばゆい銀玉の山。

伝説のヒッター・山田と、新星・金田玉男。

二人の激闘は、ついに最終局面を迎えていた。



「見ろよ、あれが山田の逆手打法だ……!」

岡田が観客のように興奮しながら声を上げる。


「右にあるハンドルを、あえて左手で握る。常識を裏切るその矛盾が台の乱数を狂わせ、大当たりを呼ぶってわけだ……!

でもな、その分、手首や筋への負担は尋常じゃねぇんだよ!」


山田の左手は、真っ赤に腫れ上がり、震えていた。

それでも彼は決して右手に持ち替えない。

逆手こそが、自分の矜持。戦い続けてきた証――。


「うっ……!」

苦しげに顔をしかめても、山田の瞳はなおも炎を宿していた。



一方、玉男は――。

己の“オカルト”を信じ、ただ一球一球に魂を込め続けていた。


「……いまだ」

深く息を吸い、吐き、ハンドルを撫で、一撃。


その姿は修験者の祈りにも似ていた。


だが――。


岡田が苦々しく呟く。

「玉男の一球入魂打法は、確変中でも一発ずつしか打たねぇ。その分、台が回らねぇんだよ……いわゆる“タイパ”が悪すぎる!

普通なら、この時間で3倍は回せるはず……だけど、アイツは魂込めすぎて、一歩も譲らねぇ!」



時計は閉店時刻22時を刻む。

残り時間は、わずか5分。


山田は腫れ上がった左手を震わせながら、それでも必死にハンドルを押さえる。

玉男は汗で滑る手を握り直し、呼吸を荒げながら台に向き合う。


「……これが、ヒッター同士の意地か」

岡田が思わず唸った。



最後の瞬間は、同時に訪れた。


「頼む……行けッ!」

玉男が渾身の一球を打ち込む。


――液晶が虹色に輝き、魚群が海を埋め尽くした。

プレミア演出。大当たり確定。


「来た……!玉男、プレミア大当たりだ!」


同時に、山田も最後の力を振り絞る。

だが――。


「……ぐっ……!」

限界を迎えた左手が、ついにハンドルから滑り落ちた。



ホール全体が息を呑む中、スタッフのアナウンスが響き渡る。


『本日の出玉ランキング!』

1位―金田玉男! 75、600玉

2位ー山田!   74、800玉



ホールは一瞬の静寂に包まれ、やがて大きなどよめきが起こる。

だが当の二人は、もう体力も気力も限界だった。


山田は深く息を吐き、腫れた手を押さえながら小さく笑った。

「……見事だよ、玉男くん。次は俺も“本気”の右手を使うかもしれないな」


玉男は息を切らしながら、ただ黙って頷く。

岡田が駆け寄り、肩を叩く。

「やったな、玉男! お前……本物のヒッターだ!」



こうして――

「パーラー銀星」の覇権を巡る伝説の一夜は幕を閉じた。

だが、この勝負はまだ序章に過ぎない。


真のヒッター同士の戦いは、これから始まるのだった。

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