第8話 ライラの過去と大守護者の不満
椅子に座りながら空いたベッド付近にいる彼女に向けて何の用事か問うアッシュ。
「それで話ってのは?ただの旅人に何の様で?お礼が必要なら勿論払う、それと怪我の経緯なら貴女が言った通り森の主のせいだ」
(助かったが目的がバレたりしたらマズい............こいつはレベルが違いすぎる。ただの羽虫と翼竜を比べる様なモンだ............)
「そうか、アレと対峙してあの程度で済んで何よりだ。............それらはよい、それよりこの部屋は密室、防音だったよな?わざわざセキュリティの高い角部屋を選んだからな、そうだよな?私の感知にも引っかかっていないので問題は無いだろうが」
何故か完全犯罪でも狙っているかの様な事を聞いてくる。
「あ、ああ。そうだ、何か内密にしたい話でもあるのか?」
(あ、暗殺でもする気かっ!?)
「いや、気を張るのには疲れるからだ。はぁ、私の立場には威厳も必要だからな。お前達流浪人には関係無いだろうがな、お役人サマってのは誠実に仕事をすると本当にめんどくさいのだ」
そう言うとすごくだらしなく空いているベッドに寝転びながら話し続ける。
「そこまで出世しても面倒だなんて夢が無いな」
アッシュは心底虚しそうに言う、高い地位を奪い取る野望が前々からあったからだ。
そして荒くれでもエリートでも結局生きるのは大変なんだと心が更に虚しくなるアッシュ。
「泰平の世を願い厳しい鍛錬を続け認められて守護者になったが護りたいモノ達を護れず、反吐の出る身分とプライドだけが高いだけのカスを警護するのは疲れるのだよ」
うんざりした表情で寝そべりながら話し続ける。そして途端に手から魔法陣を出して飲み物を取り出すと飲み始めながら話を続ける。赤ワインの香りがしたがアッシュは触れない。
「今のアンタを見たら簡単に察せれるな」
「特に私の管轄の国の一つのここは最悪だ、建国当初から頭が腐っていたから末端まで腐り落ちるのは早かった、いや最初から既に腐った者ばかりを雇ったと言った方が良いか?先の兵を見ればわかるだろう?」
アッシュは勧誘すれば強力な助っ人を得られるとも考えたが、カス相手でも守護者を続ける使命感の強さと叛逆心を天秤にかけた時にどちらに転ぶか予測できない為、一旦は無難に答えた。
「ああ、オークってだけで差別されたからな。と言っても俺が逆の立場の種族なら警戒はするがね。そう言えば名乗っていなかったな、俺はアシュグリムだ。そこの子供の方はライラで異質なデカい方はムラサメヒカリだ。あんたは?」
「そうだな、特にここは奴隷制を取り入れている差別国家だからな。突然変異の灰被りのオークなら尚更警戒されるだろう。にしてもオークにしては珍しい名だな、それも灰被り特有の感性か?」
「そこのデカいのに名前を貰ったからなぁ。そりゃあ当然感性が違うんだろう。全くオークらしい名前じゃあない............だからだ、良い名前だろう?そんで貴女の名前は?」
アッシュは出逢ったばかりの恩人の人間から貰った名前というよりは、長年の友人から貰った様な感覚でいた。だが本人には気に入っている様子をやはりあまり出さない。
欠伸をしながら返答する彼女。
「ふぁ〜............。そうか。勇ましく、それがわかりやすい良い名を貰ったな、アシュグリムよ。そして私の名はヘレル=ダークネスターだ。今後会うことがあれば気軽に呼び捨てで構わない。ん?............ムラサメヒカリ?名前からするに軍事国家のオオヤマトノクニ出身か?それにライラは聞き覚えがあるな............そうだ常闇のベルセルクの少女だ!一度前に見た時よりは少し大きくなっているがかなり小柄だな。存命だったとは何よりだ............」
心の底から安心し再開出来たことを喜ぶ様に言う彼女は寝ているライラに近づき、微笑を浮かべ頬から頭を撫でる。
この世界で日本に当たる国の出身と勘違いされるヒカリ、そしてライラの事は知っていた事に彼は驚く。
「ムラサメの出身は聞いてないから知らない。............へえ、ライラはそんなに有名だったのか、まあ強いしな。あと常闇とは?」
「知らないか?約5年前に12歳の少女が無茶苦茶な戦いをしてシュベリ王国を守ったのを?たった1人でその未熟な体を酷使し死にかけたが、鉱物を喰らい小国程度なら容易く人民建物諸共捕食し尽くす、あの移動する災害として悪名高いメタラゴンを屠ったのだ。一切の光を無くす暗闇と一騎当千に迫るかもやしれん幼き身体に宿る怪力を使ってな。............守護者の卵の中にこんなとてつもない逸材がいると私は喜んだ!!たが、たがだッ!あろうことか
だらけていた彼女は豹変し熱く語り憤りを隠さず話す、二人が寝ていることも忘れる程だ。
「............金属輸出大国だから狙われたか。しかし、捕食した金属の種類と量で強さと能力が変わるあのドラゴンを殺したのかっ!?にしたって何故1人だけ何だ?両親は?他の守護者や衛兵はどうしたんだ?親衛隊みたいなのもいるんじゃないのか?」
(闇を操るなんて知らないぞ?それほど俺はナメられていたのか?いやライラの事だ気づいて無いのか?その魔法を使える事を?自覚しなければ使えない魔法もあるからな............)
「高品質な金属で作られた装備が大量生産されていて、武具は潤沢だが鍛錬を怠り汚職に塗れた兵士など頭数にも入らん。寧ろ奴の餌、養分よ。そして親衛隊はいない、代わりに傭兵団を雇っている、一応近衛兵はいるがな。そしてただの守護者達は例え国家間の戦時中でも大きな危機にでも陥らない限りは決まった場所から離れないのが基本規則。私の様に飛び回って守るのでは無く、その場の守護が使命だからな。が出所が未だわからないデマの情報を流され何百キロ離れた隣国に多数の
「だいぶマズいな、その後どうしたんだ?」
「最低だ。出払っている状況だと言うのに当の王は女を侍らせ自分と己が信用する兵士や貴族たちだけ助かる為に堅牢な地下シェルターに籠り、まともに指示すらしなかったと証言があるッ!あそこで............あそこでッ!!迅速に対処し守護者達を戻していれば、私の弟は死ななかった............12歳のライラも命を賭ける必要も無かったッ、場内の町には守護者達や兵士の子供、つまり見習いしか残されていなかった、その中に私の弟もいた。死んだ理由や詳細は知らない、遺体は損傷が激しいと言われ見るなと忠告され、弟の亡骸を見るのを怖気付き確認出来なかった。怖かった、弟を思い出す度に悲惨な遺体が脳裏に焼き付き楽しかった思い出さえも恐怖の対象になるのがっ............悪い、話に戻るがそれ程に現地は混乱を極めていた............ダメだ、気分が悪くなってきたから一旦この話題は止めだ」
文字に起こすと長いが、それを早口で怒りと悲しみ混じりに話す彼女、本質はアツい人だったのだろう。だが幸いにも今でも情の深さは健在だ。
「ああ、貴女が無理する必要は無い」
「悪いな、それよりライラの両親は息災か?封印術に長けた父と鋼鉄をも切り裂く糸を操る母だ、ライラと知り合いなら会ったことあるだろう?はぁ............シュベリのクソが左遷させなければお二方共に大守護者に抜擢される事間違いなしだったのにな............」
そしてとてもマズい質問をされたアッシュは正直に話すか迷う、だがライラが起きれば嘘がバレるかもしれない、もしくはライラに気を使わせてしまうと考えて真実を話した。この場で殺される事を覚悟して。
「............俺がライラを見逃す代わりに人質にしていた無抵抗の両親を殺した、その上で更にライラをも殺そうとした。それを当然ライラも知っている。そしてムラサメに敗れ、その上でこの命見逃してもらった。故に第二の生という理由で名を貰った」
それを聞いたヘレルの不気味な眼を見開き驚くがため息が漏れ出る。
「そうか、あの悪辣な王らしい。自らの手は汚さず同胞からも迫害を受ける社会的弱者の灰被りを利用するとはな。............言わなくて良い、どうせ脅されたのだろう?あいつのやり方だ、断れない弱者を利用して弱者を殺させるか共倒れを狙う」
とても心底本当にうんざりしている様子のヘレル。恐らく似た様な状況を見聞きしたのだろう。
だがこの話を聞き彼女は疑問に思った、じゃあ何故仲良く無意味にこんな町に旅しているのか、流浪人は嘘では無いだろうかと。
「............となるとお前、流浪人は嘘だな?ライラとお前が和解して、私から見てよくわからない
あまりにも否定の出来ない事実を突きつけられアッシュは冷や汗をかく。
「そうだなぁ............嘘は詫びる。この通りだ」
オークらしからぬ謙虚な態度で土下座し謝る、がそれを必死に止めたヘレル。しかし、差し伸べた手を無視して土下座したところでヒカリが目を覚ます。
「んん............っ!はっ!??ライラ!助かったのか!............?誰だ?アッシュに何するつもりだ?土下座までさせやがって」
何を勘違いしたか揉め事が起きていると勘違いして立ち上がるなりヘレルに近づく。
「ほう、身長は2mは超えているな。大体177cmの私でも女の癖にデカいだの可憐さのカケラも無いだの言われるが桁違いだな、角や尾も牙もないか種族はなんだ?」
(............綺麗なオッドアイだ、良い眼をしている)
「質問に答えねぇで質問返しするんじゃあねぇぞ」
一触即発の雰囲気にアッシュが必死に止めた。
「違うっ!アホンダラ!その人は俺らの恩人だ!」
「えっ?」
事の経緯を全て説明しているうちにライラも目を覚ました。2人は気絶した後の出来事を全て知った。
「申し訳ねぇ!恩人だと知らずに責めてしまうだなんて、なんと落し前をつけたら良いか............そうだ、スジが通らねえ、指ぃ詰めます。フクトってやつで何度も治して繰り返して良いので............」
前世で惨い死に方をしたので痛みに耐性があるあまりにイカれた方法で、勘違い如きの罪を赦してもらおうとするヒカリ。
「やはりお前はオオヤマトノクニ出身地だろう?責任の取り方がいちいち物騒で、頼んでもないのに自ら率先してケジメつけようとするなんてイカれている。............お前もしかして昔話のヤクザかニンジャに憧れているのか?」
「オオヤマト?もしかして日本ですか?なら出身は一応そこなのかなぁ............」
「!??............日本はその一つ前の国だろう?お前一体何百歳なんだ?それに魔法を使う時に触れてわかったが純粋な
安易に前の世界の言葉を出した事で怪しまれた上に何もかもお見通しされた。
「くっ!大って付くだけある守護者様ですね、なんでもお見通しってやつですか............」
(待てよ、日本は存在した世界だと?日本っぽいじゃなくて、その昔の日本は私の知る日本なのか?............ならここは異世界じゃなくてみっ、未来!??いや、文明レベルと魔法の存在からしてありえないか............)
この世界の歴史が子供よりも知らないので憶測で焦るヒカリ。
「敬語はいらない。もうウンザリしているんだ、まあお前の敬語は遜った気持ち悪さは無いがな」
(すごくお前に異性として興味がある、敬語と立場は壁になるから無くすべきだな)
立場上ゴマスリの人間が寄ってきたりと苦労している様だとヒカリは彼女の考えている事を知らず思っているとライラが口を開く。
「あ、あの!大守護者様に名前を覚えて頂いているなんて身に余る程に光栄です!!この度は命を救って頂きありがとうございます!」
とニコニコしながらとてとてと走り寄り彼女の手を握りブンブン振り回す。
「ふふっ、勇敢なライラを忘れないなんて無理があるからね。それと直接命を助けたのは私ではなく............えーっとヒカリだったか?ヒカリが治したぞ、名前を忘れて申し訳ないな」
(私が当時もっと権力があれば、もっと強くあり正式な守護者であれば左遷も両親の死も、今の過酷な状況を防げたかもしれないのに、それでも尚私を慕うのかライラ............)
少し物悲しげな顔しつつライラに対応する。
「えっ!?」
「アッシュ話したのか?隠しておけよ〜、ダセェじゃねぇか」
そう笑いながら言う。
「色々とお前達が眠っている間に話してな」
どう治したか詳しく話した。治したとしか聞かされていないヘレルはドン引きする。
「あまりにも無茶だ、子供の頃に回復魔法や魔力パスの基礎は習わなかったのか?だがそうしていなければ亡くなっていただろう。守護者達の中でもそこまで覚悟が決まっている奴はそういない」
(その勇敢さや会ったばかりの人間にここまで優しく出来るなんて大守護者ポイント5000兆点)
よくわからないポイントで心の中で称えるヘレル。
それについてアッシュが話す。
「もうお前がなんなのか話しても良いよな?ムラサメ?」
「どうせ話さなくったって、いつか............いや多分もうほぼバレてるからいーよ」
(漫画だとどうなる?これはかなりの分岐点な気がするが............)
「こいつは基礎中の基礎の身体強化の魔法すら知らない、それどころか魔法文字一つも読めやしない。この世界の事を知らない」
それに驚き遮る様に話すヘレル。
「なんだと!??記憶喪失か?それともアウトサイダーズか?外界からの侵略者、この世界以外から来たと言う生物。それなのかっ!ならば筋が通る、オオヤマトの初代統治者の永世皇帝の星砕きのタカネは元々はアウトサイダーだったからな。疑惑は一応だが大昔に払拭されたがアウトサイダーズの拠点とされていたからな」
(また己の陳腐な使命感で失うか............)
一気に戦闘モードになるヘレルは両刃の片手剣をヒカリに向ける、魔力が荒立つ彼女に怯えたアッシュとライラ。そもそもまともに魔力を感知出来ないヒカリは平気に剣を手で掴み首元に向け話す。
「私は確かに昨日に異世界から来た。だが、侵略者とは違う............と自分を信じている。私は自称中級くらいの神にこの世界に移され生を受けたデミゴッド(仮)だ。アウトサイダーズとやらならばここで私を斬るか?だが遅かれ早かれ、どの道アンタは私を斬る
言っちゃうの?と仲間の2人は驚き言葉が出ない。だがヘレルは冷静に言う。
「何故、この世界に来て間もないのに関係の無い国に関わろうとする?お前にとってこの世界はまだ未知だろう?自身のポテンシャル(容姿含め)も理解してないみたいだしな、心底勿体無い」
その言葉の真意を試す様に聞く彼女に答えるヒカリ。
「ただ1つ誰にでも簡単にわかる事がある。この世界どの世界にも悪とそれに苦しめられる被害者がいる事だ。それを
「............。そうか、茨の道を歩むか。私はお前の様な人間が現れる事を期待していたのだな。此度は見逃そう、だが加担する事は出来ない」
(やっぱり、私の目に間違いは無いな)
どこか期待に満ちた顔で答え首元の剣は消えた。だが立場が立場なので見逃したことを後ろめたい気持ちもあるのか最後の方は小声になっていた。
「感謝するよ、立場から察するに叛逆者を見逃すのは大罪だろうに」
そう言いながら握手を求める様に手を伸ばす。
「いや、私は何も聞いていない。............宿と数日の食事代だ、
その手を軽く握りながら、そう言い光の肩に手を伸ばし軽く叩こうとするが、位置がズレて思いっきりヒカリのデカい胸を掴んだが何食わぬ澄ました顔で、部屋から出て行き窓から飛び立つ姿が見えた。
(............っ!!!身長差を考慮しろ私の馬鹿!)
実際はだいぶ焦っていた。
「はぁ............馬鹿か!ヘレルの国に対する不満が溜まっていなければ一貫の終わりだったぞ!」
「まだ話したかったなぁ」
少し怒るアッシュとマイペースなライラ。
「申し訳ない、だが恩人を欺いてまで革命の英雄にはなる気はない。それとだ、シュベリを追い出したらアッシュお前が玉座に座るべきだ。突然変異の同族の待遇改善が楽だし、聡明なお前なら道を違えた事をしないだろう?」
「お前には驚かされ続けられるよ、普通は誰が支配するか揉めるところなんだがなぁ............それも会って殺し合いしたばかりの俺にねぇ............本当にいいのか?」
「アッシュが王様で良いと思うわ!風格は十分!」
「そ、そうかぁ?」
少し照れる彼を見て笑うヒカリ。一行は何とか反逆の旅を続けれることになった。
一方、その頃空を飛ぶヘレルは考え事をしていた。
(............真名魔法を聞くのを忘れたからそれを考慮しないで考えると、今のままの彼らでは約87%の確率で勝てない、介入はしないと言ったがどうしたものか。私もアークガーディアンなんて肩書きは疲れたからなぁ。あとムラサメヒカリか、顔も綺麗な長髪に体型も声も気概も全部
そのままカッコつけて去れていない彼女は雲の中に消えた。鍛えずして13%も勝機があるのは買い被りなのか、それとも本当にあり得るのだろうか。そしてヒカリの容姿中身全てがヘレルのタイプだったから助かったのも大きそうであった。
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