第7話 高潔なツギハギの生命
アッシュは手綱を握り座っている、時折2人が大丈夫かを振り返りながら先の戦闘も振り返っている。反省点を見つけ直し、経験を活かすのが修羅の世界で生き残る秘訣だからだ。このオークらしからぬ知性と思考は突然変異の賜物だろう。
「ライラを襲撃した時、実質的に勝利したのは僥倖だったな。だが精神的に追い込まれているかいないかで左右されるのも彼女の問題ではあるな」
そう呟きながらガロウッドに吹っ飛ばされたライラを追いかけた所から思い出す。
「ライラァッ!!............ライラ!??」
オークの剛力で細い木々を無視して吹っ飛んだ方向に走る。そしてやっと見つけた頃には1匹を斧で斬首しているライラであった。
「大丈夫っ!小さい方の1匹は始末したから!あと少し大きい1匹が潜んでいるから気をつけてっ!!」
その手には模様は刻まれていなかった。真名魔法無しで手に持っている巨大な斧で一撃で沈めた様だ。
「バーサーク無しで不意打ちされたのに一撃で勝ったのか?」
(なんだと?何故その小さい身体で、その大きさの斧を振る?)
「斧の重さと形はある程度操れるからね、今は軽いのよ。それで断つ時に一気に重くする、それが真名魔法を使わない時のメインの戦い方。貴方相手の時は怒り狂って最初からバーサーク使っちゃって疲労でダメダメだけどね............ってほら来たよッ!よいしょっ!」
ライラは話しながらも背後から迫る魔物の噛みつきに斧を挟みガードすると刃を巨大化させた。
「あら?これで口を切り裂けたと思ったのに避けられてしまったわ。アッシュ加勢して!真名魔法はヒカリに何かあった時の為に取っておきたいのっ!」
そう言いながら斧を消して宙返りして距離をとった。
「あ、ああ!だが真名魔法は使えない上にそれに関連する魔法ばかり開発したせいで、ただの一介のオークとしてしか戦えん。シンプルな身体強化のみだ、それもどの生き物も大なり小なりやっているやつだ」
そう言うとガロウッドに駆け寄り殴りかかるが軽快に避けられカウンターをしようとするもライラが防ぐ。
「ヒカリくらいしか知らないしやっていないレベルの話よ。じゃあ、燃えて!ホム!」
「がゔっ!?」
下級炎魔法を放ち木製の魔物を怯ませた、そこにアッシュが魔物に組み付く。
ちなみに炎魔法は最下級が名無しでライターの様に使い生活必需魔法扱い。
下級 ホム
中級 ホムホム
上級 ホムラ
最上級
である(※地方、地域によって変わる事も)派生魔法はいくつもある。そして魔法なので当然練度によって規模はかなり左右される、玄人のホムは中級者の本気のホムラを越す事もある。
そして今使ったライラのホムは怯ませる為のかなり弱目のもの
「ぐうっ、小賢しく俺に木を刺して暴れているっ。ささっとやれ!」
頑丈なオークと言えどザクザクと刺される。近距離防御タイプの魔物と近距離攻撃を得意とするオークでは魔法無しでは不利だ。
「ええ、これにて終幕。............真名魔法ッ!バーサークッ!!そして死ねえ゛え゛え゛ッ!!!!」
小さい斧を口に押し込んでから巨大化して粉砕した。
「よしっ!やりましたわ!こうして一瞬だけ使う分には燃費が良いから助かるわ〜」
(と言ってもそこまで魔力は残っていない............やっぱり私の弱点ね)
呆気に取られたアッシュは血を拭いながら話しかけた。
「良し!ムラサメの方に向かうぞっ。奴なら多分大丈夫な筈だが」
(これ程強いというのに............俺に負けたのか?子供故の精神の未熟さが原因か?)
それを聞き腕をクロスさせた彼女は再度
「はぁはぁ............。バーサーク............チッ、もう魔力が実は無いッ。さっさとヒカリを助けるよォッ」
そう言うと駆け出した。
「おい馬鹿!そういう自分の魔力量をわかっていて無茶するからいけないんだっ!」
(俺はやっと真名魔法が使えそうだっていうのに小娘は抑えれんなぁ)
急いで後を追い、その後は第6話の通りである。
「はぁ............やはり俺は真名魔法に頼りすぎているのが問題だな。グリモアと武具ワンセットくらい装備したいが身体の筋肉の凹凸で邪魔になる、ライラの魔法で出した武器は真名魔法では無いから便利だが、俺の武器は真名魔法だ。はぁ............何から学び改善すれば良いか、それより2人を早く町に............」
アンチェインウルフを加速させヒカリが瀕死になって10分前後で到着する。それなりに規模が広い町には門番が居た。その門番は奥から巨大な狼とオークが迫り来る事に気がつき焦る。
「へっ、変な色の............オ、オークだ!オークの襲撃だっ!しかも馬鹿デカい狼もいるぞ!迎え撃てっ!!」
防御と攻撃に分かれ魔法を展開する様子を見たアッシュは叫ぶ。
「俺に敵意は無いっ急患だァ!!若い人間の女2人が死にそうなんだ通してくれ!ッ片方はまだ子供だッ!!!」
必死に敵意は無い事をアピールしつつも、カウンター攻撃の準備をするアッシュ。
「嘘を言えーッ!止まらねば討つぞ獣共め!」
剣と盾を持った兵士達が集まり、見張り台にいる者は弓を構えた。
「クソッ!狼も馬車も消す、これを見ろッ!腕から折れた骨がはみ出て血が垂れ続けているんだぞっ!一部は既に乾燥し始める程に時間が経っている、2人とも血塗れなのは見れば赤子でもわかるだろ!」
(まあライラに付いている血はムラサメの血液だがな、だからこそムラサメの体内の血液量が心配だ)
魔法全てを解除して肩にライラを担ぎ、もう片手でヒカリ持ちアピールする。だがこの世界ではオークは嫌われ差別されがちな為に疑い続ける。
「真っ赤と赤子の赤かけて上手い事言ったつもりかぁ?どうせテメェが瀕死にして町に入るための餌に使っているんだろう?」
実際、狡猾な悪人は自分で怪我人や死人を用意して侵入して荒らす手口はある。そこに忌み嫌われるオークという種族が重なり悲しくも疑いが強まる。
「オークたった1人で何ができる?そんなに人数差があっても怖いか?それにここは王国にとって大して重要な町ではない筈だが?」
(何、馬鹿な事を言う。この状況で冗談など言えるか、俺の恩人2人が死ぬんだぞ)
顔に出さない男であるが内心はとても焦っている、こんな誰かの為に焦るのは初めてのアッシュは自身の感情にも困惑する。
「テメェら下等生物はゴキブリと同じで1匹入れたら100匹居ると思わないと危険なんだヨォ?それに見た事ない種類のオークだなぁ?それとも狂って土でも塗りたくったか?」
「ならば彼女達をこの場に置く、回収して治してくれ。それに金なら沢山ある。金貨5枚だ、これだけくれてやるから早くしろッ!!どちらかでも死んでみろ、それこそ俺と争う事になるぞッ」
(この辺り一帯で俺は
アッシュは怒鳴りながらも2人を置きその場に金貨5枚を置いた。兵士達はアッシュがその場から離れてから2人を担ぎ金を回収した。
「頼んだぞ、俺はここで待つ」
そう言いながら近くにあった岩に座ろうとする。
「まだだぞ、お前が死ぬのも条件だァ!!あんだろ?もっと金寄越しやがれやァ!」
だが貪欲な兵士は敵意が明らかにないアッシュに牙を剥く。
「そうだっ!まともな金の使い方も知らねえ獣風情がよォ!!」
周りを見てその中で比較的偉そうな奴らがそう叫ぶと一気に走り攻め込んで来る。誠意と言う意味で多めに支払った事を無知と捉え罵倒する。
「愚かだ............俺も俺だが、会話ができる知能があるってのに............虚しいなァ。来いッ!!アンチェインウルフッ!」
そう言うとアンチェインウルフを呼び出し、武器に変えて身体と拳に鎖を巻き臨戦態勢で構える。
「抵抗したら重症の赤髪の女から殺すッ!それでも良いのかァ!」
剣を向けながら叫び走り近寄る兵士。
「種族内で殆どが蛮族のオークよりも薄汚いな。............やはり
(クソが、ムラサメには悪いが耐えてくれ............)
アッシュは兵士の処刑にヒカリの身体の頑丈さが勝つ事に賭けて兵士をなるべく早く処理する判断をとった。
迫放たれた矢に迫り来る十数人の兵士を一気に、何重にもなる太く重厚で金属の重い光沢のあるチェーンで薙ぎ払おうとした瞬間、突然空から1人が舞い降り双方の攻撃を魔法の盾で防いだ。
「なっ、
(チェーンの連鎖を容易く防ぐかっ!それに人為的なのか突然変異なのかわからぬが昨日のムラサメに続いて稀有な種族を連続で見るとは............)
降り立った人間の姿は白の片翼と黒の片翼に長い
服は露出が多く明らかに異世界の偉い人という姿に、大きな胸の谷間が強調されている。鎧の役割を果たす様なモノは装飾程度でほぼ見当たらない。
「しゅっ、守護者様ぁっ!!」 「ヘ、ヘレル様が何故ここにっ!!?」 「
狼狽える非力で愚かな門番達。
「元より私の巡回ルート内であるぞ、何がおかしい?強いておかしいと言えばお前らの振る舞いだ」
比較的女性としては低い声で圧をかける彼女を見た兵士や門番は、何かを喋ろうとしても怯え声が出ず口をパクパクさせながらいる。それを見て呆れ言葉を続けた。
「それに何故だか森が騒がしい。
そう兵士を軽蔑しながら言うと恐れ慄いてい動けない兵士を推し退けてライラ達の方に行く。
「怪我人を渡せ、失せろ」
(............?えらく随分と凸凹コンビだな?小さい方は見覚えがある様な............いや、それより呼吸、脈拍は............よし安定しているな、ならば私の魔法で十分か)
そう言いながら固まっている兵を突き飛ばす様に2人を奪い取り確認した後に冷淡に言い放つ。
「お前達は全員裁判にかける、罪状は殺人未遂、略奪、職権濫用と数えたらキリがないだろう、が死罪などの極刑にあたる刑罰は免れよう。未遂で命拾いしたな」
そう言うと回復の為にライラとヒカリにの胸に手を当てた、その瞬間目を見開く。
「............ッ!」
(純粋な人間では無い、何か混じっているな。こっちの女の容姿、神の血が混じっているのか?それに両性か、ならば確実に純粋なヒューマンではないな)
「フクト。............よし、腕も治ったな、時期に体力と魔力が戻れば目を覚ますだろう」
(治るのが早い、この女自身かなり頑丈だな。触れてわかるが私の渾身の技を受けても一撃は耐えそうな程だ、そんな者が無名で暮らしているのか?これ程の至高の肉体を持っていれば戦闘には駆り出され嫌でも名を上げ有名になるだろうに)
フクトという王国兵士なら基本の回復魔法を唱えると飛び出た骨が元の位置戻り、欠けた骨は再生し裂けた傷は塞がっていく、だが自身の魔法だけの力で治る速度では無いと判断したヘレルは疑問を持つ。
そして震える門番と兵士を無視し、邪魔なので突き飛ばしながらアッシュは近づき礼を言う。
「助かったっ!赤い方は小さい方を治して瀕死だったから危なかった。ありがとう............だが、まさか大国の守護者、それも精鋭揃いの大守護者が来るとはねえ」
(アークガーディアンか、存在は知っていたがこの目で見たのは初だ)
「気にするでない、それよりもそこの赤髪にとても興味がある。この町の宿で話せるか?」
(恐らく未知の種族とオークを下手に王国直属の場に招けば面倒事になるか?それにシュベリに話が行く可能性もある............ならば適当な宿で話せば良いか)
そう話していると後ろから兵士1人が槍で不意打ちをしようとするも瞬きよりも速く尾の大蛇に噛まれ泡を吹いて倒れると彼女は振り返り軽蔑の眼差しを向けた。
「この場で処刑しても良い程の罪を、裁判にかけてやると情をかけたのを私の手心を裏切るとは愚の骨頂。クズめッ!」
身体も衣服もがグズグスに溶けて死ぬ兵士を見下して言うヘレル。他の兵士は恐怖に喚きながら逃げようとするが彼女が手を上げた途端に、文字が浮かび上がり光の檻が突如出現し兵士達が収監されると空に飛び立って行く。
「あの魔法は、ありゃあ............あのまま監獄だか留置所に運ぶのか、便利だな」
「魔法の名はエンジェイルだ、無益な殺生を避ける為の生け取りを楽にする為に私が編み出した。それに世界中の国を護り、罪人を捕まえるのが仕事だからな、こういう魔法は大切だ。私が話は通す、ようこそ。気楽に町に入ると良い。それと金貨は全て返す、あとせめてもの詫びだ。宿代と食事代も出そう」
尻尾の蛇のは自動防衛装置の様なモノであり本来は不殺を意識するタイプなんだなとアッシュは思う。
そして魔法について話す時は少し自慢げに声が高く話している様に感じたアッシュ。
「何から何まで恩に着る」
(
そうして一行は突如現れたアークガーディアンと呼ばれるヘレルに助けられ、宿に辿り着くと2人は寝かされ彼女は話し始めるのだった。
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