6月29日 大友誠司の独白

 梅雨の空はどんよりと重く曇っている。おれの心のように。

 この三か月で、信じられないくらい生徒が亡くなった。

 入院していた飯島のどかも、つい先日亡くなった。

「どうしてなんでしょうか……?」

 先日会った竹内茉由まゆの母親の、憔悴しきった顔が思い出される。

 どうして。どうしてなんだ。

 おれも聞きたい。


 竹内茉由まゆは、即死だったらしい。

 うつ伏せで、左の目から頭蓋骨の中まで、植木の太い枝が貫いていたらしい。

 転落死ということだった。

 警察の話では、高度などを計算すると、落下地点はほぼ間違いなく、屋上だろうということだった。屋上のフェンスが一部壊れていることを、その時オレは初めて知った。校長も教頭も知らなかったらしい。

 警察には自殺の可能性についても問われたが、しかしとてもじゃないが、自殺とは考えられない。彼女は成績は安定していた方だったし、体力もあり、品行方正な生徒だった。それにほかの亡くなった生徒たちとも、それなりに仲良くはしていたようだが親友というほどにも見えなかった。これまで亡くなった生徒たちとは少し、雰囲気が違うタイプだったのだ。

 台風の中で足を滑らせたのだろうと警察は言った。

 ではなぜ、彼女は台風の日に屋上に出ていたのか。

 なぜ屋上の鍵が開いていたのか。

 すべては謎のままだ。

 屋上は立ち入り禁止になり、扉は封鎖された。

 

 竹内茉由まゆが亡くなってから、丸山みどりはまた、学校に来なくなった。

 竹内茉由まゆが亡くなった日の朝、教室で丸山と竹内が大げんかをしていたとも聞くが――関係あるかはわからない。

 まあ、無理もない。ここのところ丸山は竹内と親しくしていたようだし、それでなくても、ある意味友人がこれだけ亡くなっても登校を続けているほかの生徒たちがすごいのだとも言える。

 おれだって、許されるなら休みたい。逃げたい。

 けれどそれが許されるはずがない。

 おれは丸山みどりの家に向かう。古びたアパートの一室だ。インターホンを押す。

 ……出ない。

 もう一度押そうとした時、

「ええと、どちら様ですか?」

女性の声がして振り向くと、丸山の母親が立っていた。くたびれた茶髪に、若々しい服装。職業欄はパートとなっていたが、市外のキャバクラで働いているというウワサは、間違いではないのかもしれない。

「あ、こんにちは。わたくし、みどりさんの担任の、大友と申しますが……」

「あー、先生。お久しぶりです」

 どうやら思い出したらしく、警戒を解いた笑顔を見せてくれる。こちらも少しホッとする。

みどりですよね?すみませんねー、全然学校行かなくて。お友達が何人も亡くなっちゃって、相当キたみたい」

 そう言いながら玄関の鍵を開け、「どうぞー」と招き入れてくれる。お言葉に甘えて上がらせてもらう。スリッパなどは出てこないが、こちらもアポ無しで来ているのでぜいたくは言えない。

「いえ、無理もないですよ」

 これも口癖になったセリフを言いながら、中に進む。丸山の母は何かのブランドらしいカバンをどさっとソファーに置き、

みどりー、先生来てくださったわよー」

と言いながらノックもせずに、娘の部屋と思われる部屋のドアをガチャっと開けた。

 オレも後ろからのぞきこむ。のぞきこんでから女の子の部屋を声かけもなしにのぞくのはまずいかな、と思ったが――

 目の前に飛び込んできた光景にオレは絶句する。

 丸山みどりは、床に横たわっていた。

 うつろな目、涙の跡、ぽっかりあいた口。

 そしてだらんと投げ出された両腕、両足。

 その腹には、大きな穴があいていた。

 血の海の中、中の臓器が見えていた。

 一呼吸置いて、母親が叫び声を上げながら血の海に飛び込み、娘の身体からだにすがりつく。

 オレは慌てて汗で滑る手でスマホをポケットから引っ張り出し、震える手で119番をタップした。


 丸山みどりの死因は、出血性ショックとのことだった。

 熊のようなものが民家に入り込んだのではと、山に厳戒体制が敷かれた。

 ただ、この山には熊はいないはずだと町の年寄りは言う。そもそもがそこまで大きな山でもないのだ。子どもの足で一時間もせずに頂上まで登れてしまう、小山なのだ。

「それに腹だけかじっておしまいってのも変な話だ」

「このあたりにいるとすればツキノワだろ、人を食うことはめったにないはずだぞ」

 市外から来たという猟友会の人たちが眉をひそめて離していた。

 オレはなにを信じればいいのかわからなくなっていた。

 ただ、脳裏から離れない、ある言葉がある。

「ヨシダくんの呪い」――

 まさか、本当に、これもあれも、ヨシダの呪いなのか?

 だとしたら、オレは、どうすればいいのか――

 ヨシダ……――

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