第2話:転生特典《解析瞳》と、元社畜式・サバイバル戦略
混乱した頭のまま、俺は街の門をくぐった。
石畳のメインストリートを歩きながら、改めて周囲を注意深く観察する。すると、奇妙なことに気づいた。
街の至る所にある魔道具や、人々が何気なく使っている生活魔法。それらから放たれる魔力の流れが、俺の目にはなぜか色とりどりの光の線として「視える」のだ。
例えば、露店の軒先で客引きのためにくるくると踊っているブリキの人形。
その人形には、まるで毛細血管のように張り巡らされた青い魔力線が繋がっている。その流れをじっと目で追っていくと、店の奥に置かれた手のひらサイズの魔石に辿り着いた。
「(なんだこれ……。魔力の流れが、まるで電気回路図みたいに……)」
興味本位で、その魔力回路に意識を集中してみる。すると、まるで頭の中に直接データがダウンロードされるかのように、情報が流れ込んできた。
【自動演舞人形】
動力源: 低級魔石(風属性)
構造: 単純な魔力回路による自動操作。魔石の魔力を動力に変換し、あらかじめ設定された動作を繰り返す。
解析結果: 魔力伝達効率に21%のロスを検出。回路パターンを並列式に変更することで、消費魔力を15%削減、及び動作速度を8%向上可能。改善後の期待稼働時間は約1.3倍。
「(……は?)」
なんだ、この脳内プレゼン資料は。
まるで、クライアントに提出する改善提案書じゃないか。そのあまりの既視感に、思わずこめかみが痛む。この感覚は、徹夜明けに上司から突き返された企画書を、必死で修正していた時のものと全く同じだ。
俺は慌てて他のものにも視線を移す。
街灯のように輝く光の結晶、自動で水を汲み上げる井戸のポンプ、衛兵が持つ警棒のような魔導具。その全てが、俺の目には詳細なデータと、ご丁寧にも改善案付きで表示された。
「(これが、俺の転生特典ってやつか……!)」
その名も、
あらゆる事象を瞬時に解析し、その構造、弱点、そして最適解を導き出す能力。
この力があれば、どうなる?
魔導具の改良で一儲け? 新しい魔法の開発?
いや、違う。もっと根本的な、俺の人生そのものを最適化できる。
「(この力と、ブラック企業で培った要領の良さ、リスク管理能力、そして問題解決能力を組み合わせれば……)」
俺の脳裏に、一つの完璧なライフプランが浮かび上がった。
それは、かつての俺が喉から手が出るほど欲しかった、究極の理想郷。
「(そうだ。俺は、壮大なニートになる!)」
面倒なことは徹底的に避け、危険なことには絶対に近づかない。この能力を最大限に活用し、最小限の労力で最大限の成果を得る。そう、社畜時代の経験を逆手に取り、究極の効率化でスローライフを勝ち取るのだ。非効率な努力は、もうこりごりだ。あの地獄のような日々から逃れるために、俺は誰よりも効率的に、完璧に、怠けてみせる。
そのためには、まず社会的な足場と当面の生活費が必要になる。
俺は早速、街で一番大きな建物――冒険者ギルドへと向かった。ギルドに登録すれば、身分証代わりにもなるし、簡単な仕事で金を稼げるはずだ。
ギルドの扉を開けると、エールと汗の匂いが混じった熱気が顔を撫でた。
屈強な傭兵たちがジョッキを酌み交わし、壁際にはフードを深く被った情報屋らしき人影も見える。定番の光景に、俺は少しだけ胸が躍った。
壁に設置された巨大な掲示板には、様々な
「沼地の巨大蛙討伐」「隣町までの荷馬車の護衛」といったファンタジーらしい依頼に混じって、ひときわ目を引く依頼があった。
【緊急依頼:交易ステーション『ルクス』への物資輸送護衛】
内容: 大型魔導船『スターゲイザー号』による定期輸送便の護衛。
危険度: C(航路上のデブリ、及び小規模な海賊との遭遇の可能性あり)
報酬: 銀貨50枚
「(宇宙船の護衛……か。やっぱり、この世界じゃ普通のことなんだな)」
俺は、高リスク高リターンの依頼には目もくれず、一番簡単そうな「ギルド周辺の森での薬草採集」の依頼書を一枚剥がした。
まずは宿代を稼ぐ。
焦りは禁物だ。納期前のデスマーチで嫌というほど学んだ。着実な一歩こそが、完璧なニート生活への最短ルートなのだから。
俺は確かな手応えを感じながら、受付カウンターへと向かった。
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