元社畜の俺、転生チートの『解析スキル』で美少女クルーを率いたら『宇宙最強の指揮官』になっていた――星詠みの最強指揮官
AKINA
序章:転生、出会い、そして宇宙への旅立ち
第1話:転生したら剣と魔法!……のはずが、魔導宇宙船が空を飛んでいた件
ちか、ちか、と瞼の裏で光が点滅する。
意識がゆっくりと覚醒していく中で、最初に感じたのは、ひんやりと湿った土の匂いと、むせ返るような草いきれの香りだった。頬を柔らかな苔がくすぐり、背中にはごつごつとした木の根の感触がある。
「……ん?」
重い瞼をこじ開けると、視界に飛び込んできたのは、鬱蒼と茂る広大な森の光景だった。天を突くほどの巨木が何本も立ち並び、その枝葉の隙間から射し込む木漏れ日が、まるでスポットライトのように地面を照らしている。
肺を満たす空気は、前世の都会では決して味わえなかったほどに濃く、澄み渡っていた。遠くからは、聞いたこともない鳥の鳴き声が、まるで歌のように響いてくる。湿った土と、甘い花の蜜のような香りが混じり合い、ここが自分の知る世界ではないことを、五感全てで理解させられた。足元には見たこともない色鮮やかなキノコや、それ自体が淡い光を放つ不思議な花々が咲き乱れていた。
「(あれ……俺、死んだんじゃなかったか?)」
最後の記憶は、蛍光灯が白々しく照らすオフィス。鳴り響くアラーム、モニターのブルーライトに焼かれた網膜の痛み、そして胸を締め付けるような圧迫感。連日の徹夜と過重労働の末、俺――ユウトは、三十路を目前にして、あまりにもあっけなく過労死したはずだった。
ゆっくりと身を起こす。驚いたことに、体は羽のように軽かった。長年のデスクワークで凝り固まった肩も、慢性的な寝不足による頭痛も、全てが嘘のように消え去っている。深く息を吸い込むと、澄み切った空気が肺の隅々まで満ちていく。
「……マジか」
思わず乾いた笑いが漏れた。
これは、まさか。Web小説で幾度となく読み漁った、あの定番中の定番の展開。
「異世界転生ってやつか……!」
ブラック企業で社畜として心身ともにすり潰された俺に、神様がくれたセカンドチャンス。そうに違いない。
もう、理不尽な上司の怒声に怯えることも、終わらない残業に絶望することもないのだ。これからは剣と魔法のファンタジー世界で、穏やかなスローライフを満喫してやる。あわよくば、エルフや獣人の可愛い女の子と出会って、ハーレムなんて築いてみたり……。
そんな都合のいい妄想に浸りながら、俺はあてもなく森の中を歩き始めた。
***
どれくらい歩いただろうか。森の木々が次第にまばらになり、やがて視界が大きく開けた。なだらかな丘の頂上。その向こうに広がる光景に、俺は息を呑んだ。
眼下には、石畳の道とレンガ造りの家々が織りなす、美しい街並みが広がっていた。堅牢な城壁に囲まれ、中央には天を突く尖塔を持つ荘厳な教会らしき建物も見える。まさしく、俺が夢にまで見た、古典的なファンタジーの世界そのものだ。
「おお……! これだよ、これ!」
期待に胸を膨らませ、街へと駆け出そうとした、その時だった。
ゴオオオオオオオオオッ!!
突如、腹の底に響き渡るような、凄まじい轟音が世界を震わせた。
それは雷鳴などという生易しいものではない。空そのものが裂けるような、圧倒的な質量の塊が空気を引き裂く音だった。
反射的に空を見上げた俺は、己の目を疑った。
街の上空を、巨大な「船」が悠然と横切っていく。
磨き上げられた純白の流線形の船体。翼のように広がる複数の青い発光部。そして船体後部からは、オーロラのような淡い光の粒子を静かに噴射している。それは、俺が知るどんな航空機とも違う、SF映画のCGでしか見たことのない、紛れもない宇宙船だった。
全長は数百メートルはあるだろうか。その巨体は、眼下の街並みに巨大な影を落としながら、物理法則を無視したかのような滑らかさで進んでいく。
やがて船は、空に描かれた一筋の航跡を残し、昼間だというのにくっきりと見える漆黒の宇宙へと、吸い込まれるように消えていった。
「…………は?」
呆然と立ち尽くす俺の頭上を、今度は戦闘機のような鋭角的なデザインの小型艇が数機、編隊を組んでけたたましい音と共に飛び去っていく。
何が何だかわからないまま、再び街に視線を戻す。すると、先ほどは気づかなかった光景が目に飛び込んできた。
家々の軒先には、魔法の光がガス灯のように揺らめき、自律して動く小型のゴーレムが、人々を器用に避けながら荷物を運んでいる。パン屋の店先では、炎の魔法で石窯が熱せられ、鍛冶屋の炉では、風の魔法がふいごの役割を果たしていた。かと思えば、その横を車輪の無いバイクのような乗り物が、青い光の尾を引いて走り去っていく。道行く人々は、剣を腰に差した冒険者風の男もいれば、ローブを纏った魔法使い風の老婆もいる。だが、彼らは空飛ぶ船を気にも留める様子もなく、まるで日常の一風景であるかのように受け流していた。
ファンタジーとSFの、あまりにも奇妙で、ちぐはぐな融合。
「(俺の知ってる異世界と、違う……!?)」
丘の上に一人立ち尽くし、俺はただ呟くことしかできなかった。
どうやら俺の第二の人生は、俺が夢想したスローライフとは、少し、いや、かなり違うものになりそうだ。
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