神様の事情

「じゃが断る!!」

「はああぁぁ?!」

てっきり異世界に転生させてもらえると思ったのに、急に拒否されて、僕は素っ頓狂な声を上げてしまった。


「あんた、ここが異世界転生の間だって言ったよな?! 転生を断るってどういうこと?! それじゃ何の為に僕をここに呼んだんだ?!」

僕は目の前の神様と思しき老人に食ってかかる。


「それには深い事情と長い説明があるのじゃが…聞いてくれるか?」

「手短かにお願いします」


「飽きたのじゃ」

「……はぁ??」

一言だけの返答に、僕の身体が固まった。


「飽きたのじゃ」

「はあ!?」

「飽きたのじゃ」

「…なんだって…?」

「おぬし、若いのに耳が遠いのか?」

「聞こえなかったわけじゃねーよ!」

「そうなのか。同じ台詞を3度も繰り返す羽目になった儂は、まるで呆け老人のようではないか」

「別の意味でボケてるでしょーが!! いや、ほんとに歳でボケてるのか?」

「失敬な。永いこと生きておるが、ボケてはおらんぞ」

そんなことを言いつつも、老人の目は笑っている。確かに頭はボケてなさそうだけど…なんかムカつく。だけど、ここで怒ってもしょうがないか…。

僕は気を落ち着かせて、とにかく理由を聞いてみることにした。


「それで、何に飽きたんです?」

「うむ。儂は、今まで何人もの地球人を異世界に転生させてきたのじゃ」

「それで、転生させるのに飽きたって言うんですか?!」

「そうではない。儂は転生させた後、その者の行く末を見守ってきた。

 ある者は気の合う仲間に囲まれて楽しく暮らし、ある者は魔王討伐を達成して名実ともに勇者となった。中には非業の最期を迎えた者もおるが…。

 とにかく儂はただそれをひたすら見ているだけ。それに飽きたのじゃ」


なるほどね…。

確かに永い時間をただ他人ひとを見て過ごしているだけじゃ、飽きるかもしれないね…。

っていうか、神様も飽きたりするのか。まるで人間みたいだ。

でも神話に出てくる神様も、だいたい人間みたいな感情で行動するから、そんなものなのかもしれないかぁ。


「見てるのに飽きたっていうのは分かりました。けど、それで僕の転生を断るって言うのは…どうなんです?」

「うむ。そこで儂は考えた」

「…」

「ただ見ているだけではなく、自分で経験してみたいと。

 誰かを転生させるのではなく、自分を転生させようと」

「……はあああぁぁぁ!?」


老人はキラキラと輝く良い笑顔を僕に向けた。

「おぬしには、儂の代わりに異世界転生させる神になってもらいたいのじゃ!」

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