最終話 さあ、行きましょうか。
夕暮れ時の「ペンタゴン」は、柔らかな陽射しと賑やかな人々の声に包まれ、まるで世界が一日の終わりをゆっくりと讃えているかのようだった。
窓の外には、金色に染まった雲が浮かび、街を行き交う人々の影が長く伸びていた。そんな中、リネット、ミラ、エリアの三人は、久しぶりに戻ってきたタローを囲み、あの日と変わらぬ味――ラム肉の串焼きを頬張っていた。肉の香ばしさと、じんわりと染み出す旨味が、懐かしさと嬉しさを同時に運んでくる。不思議と心があたたかくなる、そんな時間がそこにあった。
「それにしても、タローさんって、いつでも変わらないよね。どんなすごいことしても、あののんびりした雰囲気は全然崩れないし。」
ミラが笑いながら、串から肉をかじる。
「見た目は穏やかだけど……ほんと、やるときは底知れないのよね。もう何度驚かされたか分からないわ。」
リネットが肩をすくめるようにして言うと、エリアがふふっと笑って言葉を継いだ。
「でも……やっぱり、タローさんがいると安心するんです。何があっても、この人がいれば大丈夫だって思えるから。」
そんな三人の言葉に、タローは特に照れる様子もなく、むしろ当然のように串を置いて、飄々と返す。
「私は何もしてませんよー。皆さんが真面目に努力してたから今があるんです。私はちょっとお手伝いしただけですよー。」
その言葉に、三人はどこか懐かしさを覚えるように微笑んだ。タローはいつもそうだった。自分の力を誇らず、誰よりも自然体で、誰かの背中を押し続けてくれる。無理に前に出ることはなく、それでいて、誰よりも深く物事を見つめている人。
だからこそ、彼女たちは強くなれた。
タローがいなければ、ここまで来ることはできなかったかもしれない。しかし、彼が手を差し伸べてくれたのは、いつだって“必要な時”だけだった。だからこそ、歩いてきた道は間違いなく自分たち自身のものだと、三人は誇りをもって言えるのだった。
「さてさて、次はどこに行きましょうかねー?」
そう言って串の最後の一口を頬張るタローに、三人はすぐには返事をしなかった。言葉を選んでいたわけでも、行き先に困っていたわけでもない。ただ、この静かな時間が愛おしく、ほんの少しだけ、進むのが名残惜しかったのだ。
「行き先は……タローさんに任せるよ。私たち、どこへでもついていくから。」
ミラが笑顔でそう言うと、リネットもうなずいて言葉を続けた。
「ええ。次の冒険も、きっと私たちにとってかけがえのないものになるわ。」
「どんな場所でも……私たちは、私たちですから。ね?」
エリアの言葉に、タローはほんの一瞬だけ、驚いたように目を見開き──それからいつもの笑顔で応えた。
「じゃあ今回は……私が興した国でも、ちょっとだけ見に行ってみましょうかねー。そこのごはんも美味しいんですよー。」
そう言って、軽く手を振ると、彼の椅子の横にふわりと異空間の裂け目が生まれた。淡い光が辺縁から漏れ、まるで“向こう側”に優しく誘っているかのようだった。
その先に何があるのかは、誰にも分からない。だが三人は、もう迷わなかった。
タローを追って、新たな一歩を踏み出す。いつかのように、不安と期待を抱えて。
それが、彼女たちの選んだ“冒険者”という生き方。誰かに道を示されるのではなく、自分たちで道を切り拓きながら、仲間と共に歩んでいく人生。
──こうして、再び始まった四人の旅。それはまだ、終わりの見えない物語。
それでも確かに、“続き”があると信じられる。優しくて、強くて、誰かの希望になれる未来だった。
そして今日も、冒険者たちは歩き出す。
胸を張って。笑顔で。仲間と共に。
これぞ、王道ファンタジーってやつですねー。たぶん。 飯田沢うま男 @beaf_takai
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