第24話【わたし視点】ぼうけんだ! いちばんからいごちそう!

毎日、翼さんの背中に乗ってお空をお散歩するのが、すっかり日課になった。

わたしが風を受けて気持ちよくなっている隣で、ビー玉さんはいつも、下にいるたくさんの人たちに向かって、にこにこしながらずーっと手をひらひらさせている。下のひとたちも、それを見てすごく喜んでるみたい。ビー玉さんって、もしかして目立ちたがり屋さんなのかな? えへへ、かわいいな。


でも、そんな楽しいお散歩以外の時間は、最近ちょっとだけ、退屈になってきちゃった。

ビー玉さんはいつも難しい顔で紙とにらめっこしてるし、黒騎士さんはお部屋の前でずっと石みたいに固まって動かない。

ふかふかのクッションの上でごろごろするのも、もう飽きちゃった。


うーん、つまんない!

そうだ、ぼうけんに出かけよう!


わたしは、ビー玉さんがお勉強に夢中になっている隙に、お部屋からそろーっと抜け出した。

ころころ、ころころ。

長くて広い廊下は、どこもかしこもピカピカだ。壁にかかっている大きな絵の中のひとたちが、わたしをじーっと見ているみたいで、面白い。


くんくん、くんくん。

どこからか、すごくいい匂いがしてきた。

今まで嗅いだどんな匂いよりも、もっとずっと強くて、ぴりぴりしてて、からそうな匂い!

これは、絶対、極上のご馳走だ!


わたしは、匂いのする方に、夢中で転がっていった。

兵隊さんたちがたくさん立っているけど、みんな前しか見ていないから、わたしみたいな小さい生き物には気づかない。わたしは、天井を進んだり、こそっと足元をすり抜けたりして、どんどん奥へ進んでいく。

そして、一番大きくて豪華な扉の前にたどり着いた。匂いは、この中からしている!


わたしは、体の形をうすーく伸ばして、扉の隙間からにゅるん!と中に入り込んだ。

うわあ! すごく広くて、豪華なお部屋だ!

でも、なんだか空気がよどんでて、すごくからい匂いが充満してる。

部屋の真ん中には、天蓋がついた、ものすごく大きなベッドがあった。


そして、そのベッドの上で、白髪のおじいさんが、ぜえぜえ苦そうな音を出しながら眠っていた。

そのおじいさんの体全体から、黒くて禍々しいモヤモヤが、ゆらゆらと立ち上っている。

これだ! この匂いの正体は!

なんて美味しそうなんだろう!


ごくり。

わたしは、ベッドのそばまでころころ転がっていくと、シーツをぴょんぴょん登って、おじいさんの胸の上に、ぽすん、と着地した。

よし、いただきます!


わたしは、おじいさんの体から出ている黒いモヤモヤに、思いっきり、ちゅーっ!と吸い付いた!

うわあああああっ!

からい! からい! からい!

今まで食べたどんなものよりも、何百倍もからい!

舌が、体が、全部溶けちゃいそうなくらい、強烈な刺激!

でも、おいしいいいいいいっ!


わたしは夢中で、その最高にからくて美味しいモヤモヤを、ずごごごごーっ!と、吸い込んでいった。

おじいさんの体から、どんどん黒いモヤモヤがなくなっていく。

そして、全部吸い終わる頃には、苦しそうだったおじいさんの音が、すー、すー、っていう、穏やかで静かな音に変わっていた。


ぷはーっ!。

お腹がはちきれそうなくらい、ぱんぱんだ! 大満足!

お腹の中のギザギザしたものが、前よりちょっとだけ濃くなった気がした。でも、すっごく美味しかったから大満足!

こんなに美味しいものを食べさせてくれて、ありがとう、おじいさん!

わたしは、満足感と満腹感で、すごく眠たくなってきた。

ふわあ……。

わたしは、おじいさんの温かい胸の上で、ころんと丸くなって、すうすうと眠ってしまった。

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