EP2「You know me, huh? ②」

 

「やぁ!久しぶり!1分ぶりくらい?待たせたね!」


 どうやら階段の人影は先程の声の人物のようだ。

 嫌な喋り方に、嫌な服装。


 コールはそう感じた。

 生来よりこのタイプは嫌いなのだ。


 頭にサングラスをかけ、アロハシャツ、ジーンズにサンダル。

 この服装をするは麻薬王とこいつしか居ないという確信があった。


 ……にも関わらず、彼の髪型はセンター分けの真面目くんみたいな男だった。

 コールのキャパシティはそろそろ限界だった。


 コールが黙っていると、彼は続けた。


「ま!とりあえず着いてきてよ!」


 そう言われ階段に案内される。

 少し薄暗い階段をぬらりと降りてゆくと、ドアにぶち当たる。


「よーし!じゃあ入って!」


 アロハの男はドアノブを掴み、手招きの仕草をした。

 恐る恐るドアの前に立つと、彼はそれを開ける。


 少し光が差し込むと、目に入ってきたのはまさしくアジトだった。


 普通の部屋よりは少し暗い程度、部品や精密機器が多く散乱してるが、紛れもなくここは秘密基地のような佇まい。


 さて、部屋を見渡すと目に入るものがある。

 あれは人だ。


 目に見えるのは2人か。

 黒人と女。


 なにやら雁首揃えてパソコンのディスプレイを見ていた。


 コールは思ったより少ないと感じた。

 そして次にはあぁ、なるほどと思った。


 少数精鋭という言葉が頭をよぎった。


「えーと、はいそこ。さっきまでワクワクしてたのにワザとらしく無視しないの!」

 麻薬王がその2人に声をかけた。


 ドレッド頭のマッチョの黒人がこちらを向く。

「ハッハッハ、先輩風を吹かせようと思ってね!」


 フードを深くした女性は目を逸らし答えた。

「私は別に……」


「あーそうかい。えぇと、あれがアンドリュー。アンドリュー・ガルシア」

 麻薬王は黒人を指さす。


 にこやかに彼は手を振る。

 コールは頭を少し下げた。


「んで、あの怖いのがガラシア・テレジアね」

 笑って指さすと、彼女は「余計なこと言うな」と一言。


「えーと、それと――」

 彼が奥のドアを見ると、ちょうどその部屋が空いた。


 どうやらこれで全員ではないみたいだ。

 そりゃあそうか。


「うぃーす、お疲れちゃん」

 機械音混じりの声と共に出てきたのは、顔がディスプレイの男だった。


 顔面にディスプレイのマスクが付けられた男だ。

 妖怪の類だ、コールはそう思った。


「あれー?新人?」

 彼はそのディスプレイに映っている偽物の顔を器用に驚かせて見せた。


 すごい技術だ。

 コールは機械オタクだ、純粋に感心した。


「え、なんでみんなボケたがるの?バカっぽくない?」

 麻薬王は呆れていた。


「分かってないなぁ、JJ。だーからリーダー向いてないのよ」

 なんと、その妖怪ディスプレイマスクは次に意地の悪い笑みを浮かべた。


 顔文字ベースだが間違いなくあれは表情だ。

 引きこもりの自分なんかよりよっぽど表情豊かだとコールは感じていた。


「うっせ!……あぁ、えーとね。あいつがドレイク、素性は不明」

「うぃー、よろしくちゃーん」


 ドレイクとやらが手をヒラヒラさせると、コールはどうもと頷いた。


「あ、忘れてた。俺の紹介まだだったわ!えーと、俺がジャン-ジャック・ジョー。JJでもリーダーでも何でも呼んで!」

 麻薬王は笑顔でそう言う。


 このチームに入ると決めた訳でもないのに、この男をリーダーと呼ぶ筋合いもない。

 そして仲良くもないのにJJとも呼びたくない。


 というよりかJJJでは?

 コールはそう思った。


「それで、……ったく。ジェイミーはどこ行ったんだ」


 どうやらもう一人いるらしい。

 うん。ヒロインは多ければ多い方が良い。

 コールはギャルゲーでそれを学んでいた。


「ま、いいか。あと、僕らにはコードネームがあってね。僕は“CLOWN”!誰にも僕の心の内は掴ませないってね」

 彼は不敵な笑みを浮かべた。


 知れば知るほどなんだコイツは、となるキャラクターをしている。

 妙に面白い男だ。


「俺は“MUSCLE”だ!この体が目印だぜ!」

 アンドリューという男がボディビルのようなポーズを座りながらした。


「私は“STRONG”。……よろしく」

 彼女はそう言うとガムを膨らました。


 あの全身筋肉みたいな男を差し置いてストロング……?

 どうなっているんだ?センスが壊滅的なのか?


 コールは次第に冷静さを失った。


「んで、オレは“FAKEY”!変幻自在のFAKEYな!」

 彼は顔に手をかざし、パッと手を離すと次の瞬間にはコールの顔を真似ていた。


 こいつはスゲェ、名前までイカしてやがる。

 コールはもう彼に興味が湧いていた。

 出来ることなら彼から技術を学びたかった。


 だが依然、ここに来てから一言も発していないのがこの男、コールである。


「それでもう1人、“FRIDAY”ってのが――」

 JJがそう言いかける。


 FRIDAY?GIRL FRIDA出来る女Yってこと?

 サインから察するにバリキャリ女参謀みたいな奴なのだろう。


 STRONGが気の強いツンデレ美少女なら、こっちはシゴデキ綺麗系のお姉さんか。

 うんうん。攻略対象キャラの幅としては申し分ない。


 そんな妄想を膨らませていると、コールたちが入ってきた後ろのドアが開いた。

「アラアラ!さっき連絡来た新人ちゃん?」


 声の低さに若干戸惑いつつ、コールはワクワクして振り返ると、顔が青ざめた。

「イヤン!随分と可愛い子ねぇ!」


 MUSCLEよりもデカイ図体、200cm超えだろうそのゴリゴリの体に筋肉がびっしりついた要塞だった。

 ジェイミーだけならまだしも、FRIDAYと来て……男?


「アタシはジェイミー・ゴライアスよ♡よろしくねおチビさん♡」

 頭を撫でなれ、ウィンクされた。


 身の毛もよだつような恐怖が襲ってきた。

 これは攻略対象ではない。

 マルチエンドならではのバッドエンド要素だ。


 だいぶお腹いっぱいで、コールはだんだん帰りたくなってきた頃合いだった。

 どう切り出そうかと迷っていると、JJがコールに向けて口を開いた。


「どう?どう?入りたくなってきた?もちろん君にもコードネームを付けるし、働いてくれたら報酬もたんまりあげるよ!どうだい?入らないかい?」


「――ここ、CLUB『YouTopia』に」

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